『脈経』王叔和譔 (巻第三)⑪ ~脈診の原典~

肺大腸部 第四 (2/3)

肺は西方の金なり。
万物の終る所なり。
宿葉落柯して萋萋せいせいたる枝条。其れごつ然として独り在り。
其の脈、微浮毛と為す。
衛気は遅。栄気は数。
数なるときは上に在り、遅なるときは下に在り。故に名づけて毛と曰う。
陽、当に陥るべし、而れども陥らず。陰、当に昇るべし、而れども昇らず。
邪の為めに中る所、陽、邪に中るときは捲し、陰、邪に中るときは緊なり。
捲するときは悪寒し、緊なるときは慄を為す。
寒慄相薄して、故に名づけて瘧と曰う。
弱なるときは発熱し、浮は乃ち来出す。
旦に中れば旦に発し、暮に中れば暮に発す。
臓に遠近有りて、脈に遅疾有り。周に度数有りて、行に漏刻有り。
遅は上に在りて毛釆を傷る。数は下に在りて下焦を傷る。
中焦に悪有るときはあらわれ、善有るときはかくれる。
陽気下陥し、陰気、則ち温む。
陽反て下に在り、陰反て巔に在る。故に名づけて長而且留と曰う。
 右、四時経。


【メモ】
萋萋(せいせい):草木の茂っているさま
杌(ごつ):枝のない木

原文

肺大腸部第四 (2/3)
肺者西方金萬物之所終[1]
宿葉落柯萋萋枝條其杌然獨在其脉爲微浮毛衞
氣遲[2]
榮氣數數則在上遲則在下故名曰毛[3]
陽當陷而不陷隂當昇而不昇爲
邪所中[4]陽中邪則捲隂中
邪則緊捲則惡寒緊則爲慄寒慄相薄故名曰瘧弱
則發熱浮乃來出[5]
旦中旦發暮中暮
[6]藏有遠近脉有遲疾周有度數
行有漏刻[7]
遲在上傷毛釆數在下傷下焦中
焦有惡則見有善則匿[8]
陽氣下陷隂氣則温[9]
陽反在下隂反在巔故名曰長而且留[10]
    右四時經

注釈
[1] ^ : 金性剛故王西方割斷萬物萬物是以皆終於秋也
[2] ^ : 萋萋者零落之貌也言草木宿葉得秋隨風而落但有枝條杌然獨在此時陽氣則遲脉 爲虚微如毛也
[3] ^ : 諸陽脉數諸隂脉遲榮爲隂不應數反言榮氣數隂得 秋節而昇轉在陽位故一時數而在上也此時隂始用事陽即下藏其氣反遲是以肺脉數散如毛也
[4] ^ : 隂陽交易則不以時定二氣感激故爲風寒所中
[5] ^ : 捲者其人拘捲也緊者脉緊也此謂初中風寒之時脉緊其人則寒寒止而脉更微弱弱則其人發熱熱止則脉浮浮者瘧解王脉出也
[6] ^ : 言瘧發皆隨其初中風邪之時也
[7] ^ : 藏謂人五藏肝心脾肺腎也心肺在膈上呼則其氣 出是爲近呼爲陽其脉疾腎肝在膈下吸則其氣入是爲遠也吸爲隂其脉遲度數謂經脉之長短周身行者榮衞之行也行隂、陽各二十五度爲一周也以應漏下百刻也
[8] ^ : 秋則陽氣遲隂氣數遲當在下數當在上隨節變故言傷毛釆也人之皮毛肺氣所行下焦在臍下隂之所治也其脉應遲今反數故言傷下焦中焦脾也其平善之時脉常自不見衰乃見耳故云有惡則見也
[9] ^ : 言陽氣下陷温養諸藏
[10] ^ : 隂陽交代各順時節人血 脉和平言可長留竟一時

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底本:『脈経 仿宋何大任本』北里大学東洋医学総合研究所医史学研究部・日本内経医学会
参考:『王叔和脉経』京都大学附属図書館所蔵

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