『脈経』王叔和譔 (巻第三)⑧ ~脈診の原典~

脾胃部 第三 (2/3)

脾は土なり。
敦にして福なり。敦は厚なり。
万物衆色同じからず。
故に名づけて福を得る者の広と曰う。
万物懸根住茎、其の葉巔に在り。
蜎蜚蠕動、蚑蠷、喘息、皆土の恩を蒙る。
徳は則ち緩と為す。
恩は則ち遅と為す。
故に太陰の脈をして緩にして遅ならしむ。
尺寸、同からず。
酸鹹苦辛、大沙して生じ、其の時に互行して以って各行す。皆群行せずして、尽く常に服すべし。
土は寒するときは温、土は熱するときは涼。
土一子有り、之を名づけて金と曰う。
懐挟て之を抱きて、其の身を離れず。
金は乃ち火を畏れ、熱来りて熏せんことを恐る。
遂に其の母を棄て、逃て水中に帰す。
水は自ら金の子にして火神を蔵す。
門を閉じ、戸を塞ぎて、内外通ぜず。此れ冬の時を謂うなり。
土其子を亡は、其の気衰微す。
水は洋溢為し、浸漬して池と為す。
皮膚を走撃して面目浮腫して四肢に帰す。
愚医水を見て、直に往きて之を下す。虚脾空胃、水遂に之に居して、肺喘浮を為す。
肝反て肺を畏る。故に下に沈没す。
下に荊棘有り、其の身を傷ことを恐る。
避て一辺に在て、以って水流と為る。
心衰るときは伏、肝微なるときは沈、故に脈をして伏にして沈ならしむ。
工医来占して、因りて孔穴を転し、其の溲便を利して、遂に水道を通ず。
甘液下流し、其の陰陽を亭す。
喘息するときは微にして、汗出でて正流す。
肝は其の根に著して、心気因り起る。
陽、四肢に行きて、肺気亭亭とす。喘息則ち安し。
腎、声を安ずる為に、其の味鹹と為す。
倚坐して母敗れれば、洿臭腥の如し。
土其の子を得るときは、山と為すことを成し、金其の母を得るは、名づけて丘矣と曰う。
 右、四時経。

原文

脾胃部第三 (2/3)
脾者土也敦而福敦者厚也萬物衆色不同[1]
故名曰得福者廣[2]
萬物懸根住莖其葉在巔蜎蜚蠕動蚑蠷喘
息皆蒙土恩[3]
德則爲緩恩則爲遲
故令太隂脉緩而遲尺寸不同[4]
酸鹹苦辛大[5][6]而生互行其
時而以各行皆不羣行盡可常服[7]
土寒則
温土熱則涼[8]土有一子
名之曰金懷挾抱之不離其身金乃畏火恐熱來熏
遂棄其母逃歸水中水自金子而藏火神閉門塞戸
内外不通此謂冬時也[9]
土亡其子其氣衰微水爲洋溢浸漬爲池[10]走擊
皮膚面目浮腫歸於四胑[11]
愚醫見水直往下之虚脾空胃水遂居之肺爲
喘浮[12]
肝反畏肺故下沈没[13]
下有荊棘恐傷其身避在一邊以爲水流[14]
心衰則伏肝微則
沈故令脉伏而沈[15]
工醫來占因轉孔穴利其溲便遂通水
道甘液下流亭其隂陽喘息則微汗出正流肝著其
根心 氣因起陽行四胑肺氣亭亭喘息則安[16]
腎爲安聲其味爲鹹[17]
倚坐母敗洿臭如腥[18]
土得其
子則成爲山金得其母名曰丘矣
    右四時經

注釈
[1] ^ : 脾主水穀其氣微弱水穀不化脾爲土行王於季夏土性敦厚育養萬物當此之時草木備具枝葉茂盛種類衆多或青黃赤白黒色各不同矣
[2] ^ : 土生養萬物當此之時脾則同稟諸藏故其德爲廣大
[3] ^ : 懸根住莖草木之類也其次則蛾蚋幾微之蟲因隂陽氣變化而生者也喘息有血脉之類也言普天之下草木昆蟲無不被蒙土之恩福也
[4] ^ : 太隂脾也言脾王之時脉緩而遲尺寸不同者尺遲而寸緩也
[5] ^ : 一作太
[6] ^ : 一作涉又作妙
[7] ^ : 肝酸腎鹹心苦肺辛濇皆四藏之味也脾主調和五味以稟四藏四藏受味於脾脾王之時其脉沙(一作涉又作妙)達於肌肉之中互行人身軀乃復各行隨其四支使其氣周匝榮諸藏府以養皮毛皆不羣行至一處也故言盡可常服也
[8] ^ : 冬陽氣在下土中温煖夏隂氣在下土中清涼脾氣亦然
[9] ^ : 陽氣在中陽爲火行金性畏火故恐熏之金歸水中而避火也母子相得益盛閉塞不通者言水氣充實金在其中此爲強固火無復得往刻之者神密之類也
[10] ^ : 一作其地
[11] ^ : 此爲脾之衰損土以防水今土弱而水強故水得陵之而妄行
[12] ^ : 脾胃已病冝扶養其氣通利水道愚醫不曉而往下之此爲重傷水氣遂更陵之上侵胷中肺得水而浮故言喘浮
[13] ^ : 肺金肝木此爲相刻肺浮則實必復刻肝故畏之沈没於下
[14] ^ : 荊棘木之類肝爲木今没在下則爲荊棘其身脾也脾爲土土畏木是以避在下一邊避木也水流者水之流路也土本刻水而今微弱又復觸木無復制水故水得流行
[15] ^ : 心火肝木火則畏水而木畏金金水相得其氣則實刻於肝心故令二藏衰微脉爲沈伏也
[16] ^ : 轉孔穴者諸藏之榮并轉治其順甘液脾之津液亭其隂陽得復其常所故榮衞開通水氣消除肝得還著其根株肝心爲母子肝著則心氣得起肺氣平調故言亭亭此爲端好之類
[17] ^ : 肺主聲腎爲其子助於肺故言安聲鹹腎味也
[18] ^ : 金爲水母而歸水中此爲母往從子脾氣反虚五藏猶此而相刻賊倚倒致敗宅洿臭而腥故云然也

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底本:『脈経 仿宋何大任本』北里大学東洋医学総合研究所医史学研究部・日本内経医学会
参考:『王叔和脉経』京都大学附属図書館所蔵

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