『脈経』王叔和譔 (巻第三)⑮ ~脈診の原典~

腎膀胱部 第五 (3/3)

黄帝問て曰く、冬の脈、営の如し、何如して営なるや。
岐伯対して曰く、冬の脈は腎なり。北方の水なり。万物の合蔵する所以なり。故に其の気、来ること沈にして以て摶。故に営と曰う。此に反する者は病む。
黄帝曰く、何如して反するや。
岐伯曰く、其の気、来ること弾石の如くなる者は、此を太過と謂う。病、外に在り。其の去ること数の如き者は、此を不及と謂う。病、中に在り。
黄帝曰く、冬の脈、太過なると不及なると、其の病、皆いかん。
岐伯曰く、太過なるときは人をして解㑊せしむ。脊脈痛みて少気、言うことを欲せず。
不及なるときは人をして心懸せしむ。飢を病むが如し。眇中清、脊中痛み、少腹満、小便黄赤。

腎の脈、来たること喘喘累累として鉤の如し。之を按じて堅きを腎の平と曰う。冬は胃の気を以って本と為す。
腎の脈、来たること葛を引くが如く、之を按じて益ます堅きを、腎病と曰う。
腎の脈、来たること発して索を奪うが如く、辟辟して弾石の如くなるを、腎死すと曰う。

真腎の脈、至ること摶にして絶、指を以って弾石の如し、辟辟然として、色、黄黒にして沢あらず。毛折れて乃ち死す。

冬の胃は微石を平と曰う。
石多くして胃少を腎病と曰う。
但、石のみにして胃無きを、死と曰う。
石にして鉤有るを夏病と曰う。
鉤甚だしきを今病と曰う。

凡そ人は水穀を以って本と為す。故に人は水穀を絶すれば則ち死す。脈に胃の気無きも亦た死す。
所謂、胃気無き者は、但、真臓の脈得て、胃の気を得ずなり。所謂、脈に胃の気を得ざる者は、肝は弦ならず、腎は石ならずなり。

腎は精を蔵し、精は志を舎す。
盛に怒りて止まざるときは志を傷る。
志を傷るときは、善く其の前言を忘れ、腰背痛み以って俯仰屈伸べからず、毛悴れ色夭して、季夏に死す。

冬は腎水王す。其の脈、沈濡にして滑なるを平脈と曰う。
反して大にして緩を得る者は、是れ脾の腎に乗じ、土の水を克するなり。賊邪、大逆と為す。十死治せず。
反して弦細にして長を得る者は、是れ肝の腎に乗じ、子の母を扶くるなり。実邪と為す。病と雖ども自ら愈ゆ。
反して浮濇にして短を得る者は、是れ肺の腎に乗じ、母の子に帰するなり。虚邪と為す。病と雖ども治し易し。
反すて洪大にして散を得る者は、是れ心の腎に乗じ、火の水を陵ぐなり。微邪と為す。病と雖ども即ちゆ。
腎の脈、沈細にして緊、再至を平と曰う。
三至を離経と曰い病む。四至は脱精、五至は死、六至は命尽く。足の少陰の脈なり。

腎の脈、急甚だしきは骨痿、癲疾を為す。微急なるは奔豚、沈厥、足収まらず、前後するを得ず、と為す。
緩甚だしきは折脊と為す。微緩なるは洞下と為す。洞下は食化せず、咽に入れば還出す。
大甚だしきは陰痿と為す。微大なるは石水と為す。臍下に起り以って小腹至りて腫れ垂垂然として上りて胃脘に至ると死す。治せず。
小甚だしきは洞泄と為す。微小なるは消癉と為す。
滑甚だしきは癃㿗と為す。微滑なるは骨痿と為す。坐して起すこと能わず、目見る所無し、視れば黒花を見ると。
濇甚だしきは大癰と為す。微濇なるは月あらず、沈痔と為す。

足の少陰の気、絶するときは骨枯る。
少陰は冬の脈なり。伏行して骨髄を濡す者なり。
故に骨濡わざるときは肉骨に著しく能わざるなり。
骨肉相親せざるときは肉濡却き、肉濡却く故に歯長じて垢つき、髪に沢無し。
髪に沢無き者は骨先に死す。
戊に篤く、己死す。土は水に勝つなり。
腎の死蔵、之を浮べれば堅、之を按さば乱れて円を転ずるが如し。益ます下りて尺中に入る者は死す。
 右、素問、鍼経、張仲景


【メモ】
三巻はこれで終了

原文

腎膀胱部第五 (3/3)
黃帝問曰冬脉如營何如而營岐伯對曰冬脉腎也
北方水也萬物之所以合藏故其氣來沈以摶[1]
故曰營反此者病黃帝曰何如而反岐伯曰其氣來
如彈石者此謂太過病在外其去如數者此謂不及
病在中黃帝曰冬脉太過與不及其病皆如何岐伯
曰太過則令人解㑊脊脉痛而少氣不欲言不及則
令人心懸如病飢眇中清脊中痛少腹滿小便黃赤
腎脉來喘喘累累如鉤按之而堅曰腎平冬以胃氣
爲本腎脉來如引葛按之益堅曰腎病腎脉來發如
奪索辟辟如彈石曰腎死
真腎脉至摶而絶如以指彈石辟辟然色黃黒不澤
毛折乃死
冬胃微石曰平石多胃少曰腎病但石無胃曰死石
而有鉤曰夏病鉤甚曰今病
凡人以水穀爲本故人絶水穀則死脉無胃氣亦死
所謂無胃氣者但得真藏脉不得胃氣也所謂脉不
得胃氣者肝不絃腎不石也
腎藏精精舍志盛怒而不止則傷志傷志則善忘其
前言腰脊痛不可以俯仰屈伸毛悴色夭死於季夏
冬腎水王其脉沈濡而滑曰平脉反得大而緩者是
脾之乗腎土之克水爲賊邪大逆十死不治[2]
反得絃細而長者是肝之乗腎子之扶母爲
實邪雖病自愈反得浮[3]濇而短者是肺之乗腎
母之歸子爲虚邪雖病易治反得洪大而散者[4]
是心之乗腎火之陵水爲微邪雖病即差腎脉
沈細而緊再至曰平三至曰離經病四至脫精五至
死六至命盡足少隂脉也
腎脉急甚爲骨痿癲疾微急爲奔豚沈厥足不収不
得前後緩甚爲折脊微緩爲洞下洞下者食不化入
咽還出大甚爲隂痿微大爲石水起臍下以至小腹
腫垂垂然上至胃脘死不治小甚爲洞泄微小爲消
癉滑甚爲癃㿗微滑爲骨痿坐不能起目無所見視
見黒花濇甚爲大癰微濇爲不月水沈痔
足少隂氣絶則骨枯少隂者冬脉也伏行而濡骨髓
者也故骨不濡則肉不能著骨也骨肉不相親則肉
濡而却肉濡而却故齒長而垢[5]髪無澤髪無
澤者骨先死戊篤己死土勝水也
腎死藏浮之堅按之亂如轉圓益下入尺中者死
    右素問鍼經張仲景

注釈
[1] ^ : 甲乙作濡
[2] ^ : 一本云日月年數至一忌戊己
[3] ^ : 千金作微
[4] ^ : 千金作浮大而洪
[5] ^ : 難經垢字作枯

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底本:『脈経 仿宋何大任本』北里大学東洋医学総合研究所医史学研究部・日本内経医学会
参考:『王叔和脉経』京都大学附属図書館所蔵

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