『療治之大概集』の意訳① | 江戸時代の鍼灸書

江戸時代の鍼灸の最大流派「杉山流鍼術」の教科書、『療治之大概集』について意訳と説明を書いていこうと思います。

『療治之大概集』の著者は杉山和一検校(1610-1694年)という鍼師で、杉山流鍼術の創始者でもあります。日本独自の鍼の刺し方、管鍼法を発明したことや、視覚障碍者のための職業訓練学校を作ったことなどで有名です。杉山検校については、簡単に別ページに記載していますので、興味がありましたらご覧ください。

『療治之大概集』は、『杉山流三部書』といわれる書(『療治之大概集』・『選鍼三要集』・『医学節要集』の三部で杉山検校著と考えられている。)の一つです。比較的簡易な内容で、初学者の為にかかれたと考えられています。

それでは、実際に見ていきましょう。なお、鍼灸の基礎知識は有る前提で記載していきますので、ご了承ください。

補瀉の事

【原文】

補瀉の事
一、補は呼息(つくいき)に鍼を刺さし入れ、吸息(ひくいき)に鍼を抜ぬき、その跡を揉もむなり。
一、瀉(しゃ)は吸息(ひくいき)に鍼を刺し入れ、呼息(つくいき)に鍼を抜き、その跡を揉まぬなり。

【意訳】

補瀉について
一、補法の鍼を行う場合は、患者が息を吐く時(呼息)に刺入し、息を吸う時(吸息)に抜鍼したうえで鍼孔を揉み閉じること。
一、瀉法の鍼を行う場合は、患者が息を吸う時(吸息)に刺入し、息を吐く時(呼息)に抜鍼し、鍼孔を揉まずに開けておくこと。

【補足説明】

ここでは、いわゆる呼吸の補瀉と、開闔の補瀉について書いています。特に難しいことはないでしょう。

押手の事

【原文】

押手の事
一、押手(おしで)は強からず弱からず、鍼抜ぬくまで押手動かさざるものなり。強く押して快きを虚とし、痛むものをば実と知るなり。

【意訳】

押手について
一、押手は、強すぎず弱すぎず、程よい強さで保持すること。抜鍼するまで、押手は動かしてはならない。(切経時に)強く押して心地よい部位は「虚」で、強く押して痛む部位は「実」である。

【補足説明】

前半は押手の注意点について記載しています。後半は部位の虚実について記載しています。

撚りの事

【原文】

撚りの事
一、撚(ひね)りを一大事とす。補瀉有り生死を知る。気を降すには左の方へ撚り、気を升(のぼ)すには右の方へ撚る。心に蓮(はす)の藕(いと)を持ち鉄石を撚り抜ぬくが如く、手の内を柔やわらかにして順(じゅん)と逆(ぎゃく)とを攷(かんが)え撚る時は万病瘥(いえ)ずと云う事無し。

【意訳】

撚りについて
一、刺鍼時の撚り方が非常に大切である。撚りには補瀉があり、生死がわかるのである。気を瀉す(瀉法)には、左側へ撚り、気を補う(補法)には右側へ撚るのである。蓮の糸を持って鉄や石を刺し通すような気持ちで撚りなさい。撚りの順・逆をよく考え、正しく撚れば、どのような病でも癒すことができるものである。

【補足説明】

ここでは撚りの補瀉の重要性について記載しています。
撚りの方向については、この右側が「補」、この左側きが「瀉」というイメージを施術者がしっかりと持つことが重要だと考えています。

とりあえず、このような感じで少しずつ『療治之大概集』を書いていこうとおもいますので、よろしくお願いします。

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