『脈経』王叔和譔 (巻第二)① ~脈診の原典~

平 三関陰陽二十四気の脈 第一

左手の関前寸口の陽、絶する者は小腸の脈無なり。
臍痺、小腹の中に疝瘕有りて王月には冷えて上て心をつくことを苦しむ。
手の心主の経を刺し陰を治す。心主は掌後横理の中に在り。(大陵)

左手の関前寸口の陽、実する者は小腸の実なり。
心下急痺、小腸熱有り、小便赤黄を苦しむ。
手の太陽経を刺し陽を治す。太陽は手の小指外側の本節の陥中に在り。(後谿)

左手の関前寸口の陰、絶する者は心の脈無なり。
心下毒痛、掌中熱し、時時善く嘔し、口中傷爛を苦しむ。
手の太陽経を刺し陽を治す。

左手の関前寸口の陰、実する者は心の実なり。
心下に水気有り憂恚を発することを苦しむ。
手の心主の経を刺し陰を治す。

左手の関上の陽、絶する者は胆の脈無なり。
膝疼、口中苦、眜目、善く畏て鬼状を見る如し、多驚少力を苦しむ。
足の厥陰経を刺し陰を治す。足の大指の間に在り、或は三毛の中を刺す。(行間)

左手の関上の陽、実する者は胆の実なり。
腹中実にして安からず、身軀習習たるを苦しむ。
足の少陽経を刺し陽を治す。足上第二指の本節の後一寸に在り。(足臨泣)

左手の関上の陰、絶する者は肝の脈無なり。
癃、遺溺、難言、脅下に邪気有りて善く吐することを苦しむ。
足の少陽経を刺し陽を治す。

左手の関上の陰、実する者は肝の実なり。
肉中痛動し善く転筋することを苦しむ。
足の厥陰経を刺し陰を治す。

左手の関後尺中の陽、絶する者は膀胱の脈無なり。
逆冷、婦人月使不調、王月には閉じ、男子失精、尿余瀝有ることを苦しむ。
足の少陰経を刺し陰を治す。足の内踝の下の動脈に在り。(太谿)

左手の関後尺中の陽、実する者は膀胱の実なり。
逆冷、脅下に邪気有りて相引痛を苦しむ。
足の太陽経を刺し陽を治す。足の小指の外側本節の後の陥中に在り。(束骨)

左手の関後尺中の陰、絶する者は腎の脈無なり。
足下熱し、両髀裏急、精気竭少、労倦と致す所を苦しむ。
足の太陽経を刺し陽を治す。

左手の関後尺中の陰、実する者は腎の実なり。
恍惚、健忘、目視䀮䀮ぼうぼう、耳聾、悵悵として善く鳴くことを苦しむ。
足の少陰経を刺し陰を治す。

右手の関前寸口の陽、絶する者は大腸の脈無なり。
少気、心下に水気有り、立秋の節に咳することを苦しむ。
手の太陰経を刺し陰を治す。魚際の間に在り。(太淵)

右手の関前寸口の陽、実する者は大腸の実なり。
腸中切痛して錐刀にて刺す所が如く休息する時無きを苦しむ。
手の陽明経を刺し陽を治す。手の腕中在り。(陽谿)

右手の関前寸口の陰、絶する者は肺の脈無なり。
短気、咳逆、喉中塞り、噫逆するを苦しむ。
手の陽明経を刺し陽を治す。

右手の関前寸口の陰、実する者は肺の実なり。
少気、胸中満ちて彭彭ほうほうとして肩と相引するを苦しむ。
手の太陰経を刺し陰を治す。

右手の関上の陽、絶する者は胃の脈無なり。
吞酸、頭痛、胃中に冷有るを苦しむ。
足の太陰経を刺し陰を治す。足の大指の本節の後一寸に在り。(公孫)

右手の関上の陽、実する者は胃の実なり。
腸中伏伏として食物を思わず、食を得ては消することあたわずを苦しむ。
足の陽明経を刺し陽を治す。足上の動脈に在り。(衝陽)

右手の関上の陰、絶する者は脾の脈無なり。
少気、下利、腹満、身重、四肢動ずることを欲っせず、善く嘔することを苦しむ。
足の陽明経を刺し陽を治す。

右手の関上の陰、実する者は脾の実なり。
腸中伏伏として堅状の如く、大便難を苦しむ。
足の太陰経を刺し陰を治す。

右手の関後尺中の陽、絶する者は子戸の脈無なり。
足逆寒、絶産、帯下、無子、陰中寒ることを苦しむ。
足の少陰経を刺し陰を治す。

右手の関後尺中の陽、実する者は膀胱の実なり。
少腹満、腰に引いて痛むことを苦しむ。
足の太陽経を刺し陽を治す。

右手の関後尺中の陰、絶する者は腎の脈無なり。
足逆冷、上搶て胸痛し、夢に水に入りて鬼を見る、善く寐ることを厭い、黒色の物来て人上をおおうことを苦しむ。
足の太陽経を刺し陽を治す。

右手の関後尺中の陰、実する者は腎の実なり。
骨疼き、腰脊痛み、内寒熱することを苦しむ。
足の少陰経を刺し陰を治す。

右は脈二十四気の事。


【メモ】
脈の状態と鍼治療の対応を書いていますね。興味深い。

原文

平三關隂陽二十四氣脉第一
左手關前寸口陽絶者無小腸脉也苦臍痺小腹中
有疝瘕王月[1]即冷上搶心刺手心主經治隂
心主在掌後橫理中[2]
左手關前寸口陽實者小腸實也苦心下急痺[3]
小腸有熱小便赤黃刺手太陽經治陽[4]
陽在手小指外側本節陷中[5]
左手關前寸口隂絶者無心脉也苦心下毒痛掌中
熱時時善嘔口中傷爛刺手太陽經治陽
左手關前寸口隂實者心實也苦心下有水氣憂恚
發之刺手心主經治隂
左手關上陽絶者無膽脉也苦膝疼口中苦眜目善
畏如見鬼狀多驚少力刺足厥隂經治隂在足大指
[6]或刺三毛中
左手關上陽實者膽實也苦腹中實不安身軀習習
也刺足少陽經治陽在足上第二指本節後一寸[7]
左手關上隂絶者無肝脉也苦癃遺溺難言脅下有
邪氣善吐刺足少陽經治陽
左手關上隂實者肝實也苦肉中痛動善轉筋刺足
厥隂經治隂
左手關後尺中陽絶者無膀胱脉也苦逆冷婦人月
使不調王月則閉男子失精尿有餘瀝刺足少隂經
治隂在足内踝下動脉[8]
左手關後尺中陽實者膀胱實也苦逆冷脅下有邪
氣相引痛刺足太陽經治陽在足小指外側本節後
陷中[9]
左手關後尺中隂絶者無腎脉也苦足下熱兩髀裏
急精氣竭少勞倦所致刺足太陽經治陽
左手關後尺中隂實者腎實也苦恍惚健忘目視䀮
䀮耳聾悵悵善鳴刺足少隂經治隂
右手關前寸口陽絶者無大腸脉也苦少氣心下有
水氣立秋節即欬刺手太隂經治隂在魚際間[10]
右手關前寸口陽實者大腸實也苦腸中切痛如錐
刀所刺無休息時刺手陽明經治陽在手腕中[11]
右手關前寸口隂絶者無肺脉也苦短氣欬逆喉中
塞噫逆刺手陽明經治陽
右手關前寸口隂實者肺實也苦少氣胷中滿彭彭
與肩相引刺手太隂經治隂
右手關上陽絶者無胃脉也苦吞酸頭痛胃中有冷
刺足太隂經治隂在足大指本節後一寸[12]
右手關上陽實者胃實也苦腸中伏伏[13]不思食
物得食不能消刺足陽明經治陽在足上動脉[14]
右手關上隂絶者無脾脉也苦少氣下利腹滿身重
四肢不欲動善嘔刺足陽明經治陽
右手關上隂實者脾實也苦腸中伏伏如堅狀大便
難刺足太隂經治隂
右手關後尺中陽絶者無子戸脉也苦足逆寒絶産
帶下無子隂中寒刺足少隂經治隂
右手關後尺中陽實者膀胱實也苦少腹滿引腰痛
刺足太陽經治陽
右手關後尺中隂絶者無腎脉也苦足逆冷上搶胷
痛夢入水見鬼善厭寐黒色物來掩人上刺足太陽
經治陽
右手關後尺中隂實者腎實也苦骨疼腰脊痛内寒
熱刺足少隂經治隂
右脉二十四氣事

注釈
[1] ^ : 王字一本作五
[2] ^ : 即太陵穴也
[3] ^ : 一作急痛
[4] ^ : 一作手少陽者非
[5] ^ : 即後谿穴也
[6] ^ : 即行間穴也
[7] ^ : 第二指當云小指次指即臨泣穴也
[8] ^ : 即太谿穴也
[9] ^ : 即束骨穴也
[10] ^ : 即太淵穴也
[11] ^ : 即陽谿穴也
[12] ^ : 即公孫穴也
[13] ^ : 一作愊愊
[14] ^ : 即衝陽穴也

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底本:『脈経 仿宋何大任本』北里大学東洋医学総合研究所医史学研究部・日本内経医学会
参考:『王叔和脉経』京都大学附属図書館所蔵

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