『療治之大概集』の意訳③ | 江戸時代の鍼灸書

こんにちは、鍼灸やまと治療院です。『療治之大概集』の3回目です。

鍼立てざる人の事

【原文】

鍼立てざる人の事
一、酒多くみ醉いたる人にまま立てず。
一、大きに腹立てたる人も其の儘立てず。
一、大きに身を使ひ辛労しんろうしたる人に其の儘立てず。
一、多く食して腹張るる人。
一、大きにひだるがる人。
一、大きに渇く人。
一、熇々こうこうの熱とて熱気ねっき事の外強き人。
一、漉々ろくろくの汗とて事の外ほか汗の多く出る人。
一、渾々こんこんの脈とて脈乱みだれがはしき人。
一、形も弱り病気も弱りたる人。
一、大きにおどろき大きにおそれては其の気を静めすなわち刺す。或いは馬、車、又は乗物などにのりて来たる人には食するあいだいねさせ休め刺すなり。

【意訳】

鍼をしてはならない状態
以下に示す状態の人には、鍼をしてはならない。
・飲酒をして泥酔している人。
・ひどく腹を立てている人。
・重労働をして疲れ切っている人。
・食べ過ぎて満腹の人。
・酷く飢えている人。
・ひどく喉が渇いている人。
・高熱の出ている人。
・過剰な汗の出ている人。
・脈がひどく乱れている人。
・病が進んで、酷く衰弱している人。

非常に驚いたり、恐れたりしている人は、気分を落ち着かせてから鍼をすること。
馬や車、乗り物に乗って来た人は、食事の時間くらい(30分程度?)横になって休んでもらってから鍼をすること。

【補足説明】

ここでは、鍼をしてはならない状態を記載しています。参考になりますね。

禁穴の事

【原文】

禁穴の事
一、五里の穴は肘の上三寸、大筋の中。
一、承泣 目の下七分、瞳の通り。
一、気衝 臍の下八寸、脇へ二寸。
一、箕門 膝の上八寸、動脈の中。
一、青霊 肘の上三寸
一、絡却 髪際の上五寸五分、真中より脇へ一寸五分。
一、玉枕 絡却の後一寸五分。
一、承筋 ?の正中。
一、横骨 臍の下五寸、脇へ一寸。
一、三陽絡 腕の上四寸。
一、顱息 耳の後、青筋の中。
一、角孫 耳の上、中の間、髪際の下、口を開けば陥み有。
一、承霊 髪際の上四寸、脇へ三寸。
一、神庭 髪際の上五分。
一、顖会 神庭の後一寸五分。
一、脳戸 百会の後四寸半
一、神道 五の椎の下。
一、霊台 六の椎の下。
一、膻中 両の乳の正中。
一、水分 臍の上の一寸。
一、神闕 臍の正中。
一、会陰 両陰の間。 已上二十二穴なり。
一、石門 臍の下二寸。女に鍼を禁む。此の穴に鍼立てれば命終わるまで子を生ぜず。男は苦しからず。
一、三陰交 足の内踝の上三寸。姙婦に鍼立てず。
一、合谷 手の大指と食指の間。姙婦に鍼を禁む。
一、雲門 乳の上五寸、脇へ二寸。
一、鳩尾 蔽骨の下五分。
一、缺盆 喉の下、両の陥み。
一、客主人 耳の前の上に在り。右の四穴は鍼深く刺さざるなり。
一、肩井 肩の上、骨に当て指を三つ置き中の指の当たる所の凹みなり。此の穴に鍼深く刺して目を眩さば足の三里に鍼補に立てなをるなり。

【意訳】

禁穴について
禁鍼穴
①手五里:肘の上(曲池穴から肩髃穴にむけて)3寸の大筋の中。
②承泣:瞳孔の下7分。
③気衝:臍の下5寸、外方2寸。(※八寸は誤記だと思われる)
④箕門:膝の上(膝蓋骨内上角の上)8寸、動脈拍動部。
⑤青霊:肘の上(少海穴から極泉穴にむけて)3寸。
⑥絡却:前髪際の上5寸5分、正中線の外方1寸5分。
⑦玉枕:絡却穴の後ろ1寸5分。(※一般的な位置と異なるので注意)
⑧承筋:腓腹筋の中央。
⑨横骨:臍の下5寸、外方1寸。(※現在は外方0.5寸)
⑩三陽絡:腕の上(陽池穴の上)4寸。
⑪顱息:耳の後方、青筋の中。
⑫角孫:耳の上の髪際、口を開けいたときに凹むところ。
⑬承霊:前髪際の上4寸、外方3寸。(※現在は外方2.25寸)
⑭神庭:髪際の上5分。(正中線上)
⑮顖会:神庭の後ろ1寸5分。
⑯脳戸:百会の後ろ4寸半。
⑰神道:第5胸椎棘突起の下。
⑱霊台:第6胸椎棘突起の下。
⑲膻中:両乳頭の間の正中線上。
⑳水分:臍の上1寸。
㉑神闕:臍の中央。
㉒会陰:両陰の間。
以上、22穴。

女性の場合に注意する穴
①石門:臍の下2寸。女性には鍼をしてはならない。ここに鍼をすると不妊になってしまう。男性は問題ない。
②三陰交:足の内果の上3寸。妊婦には鍼をしてはならない。
③合谷:手の拇指と示指の間。妊婦には鍼してはならない。

深く刺してはいけない穴
①雲門:乳の上5寸、外方2寸。
②鳩尾:胸骨剣状突起の下5分。
③欠盆:喉の下の両側のくぼみ。
④上関(客主人):耳の前の上方。
以上の4穴は深く刺さないこと。

肩井穴
肩井:肩の上の骨に指を3本当てて中央の指があたる凹み。この穴に鍼を深刺しして貧血を起こした場合は、足三里に補法の鍼を行うと治る。

【補足説明】

ここでは、禁鍼穴や鍼の注意点を記載しています。現在と場所が違うものもあるので注意しましょう。

尺寸を定むる事

【原文】

尺寸を定むる事
一、男は左、女は右の手の中指、中の節の折り目の間を其の人の
一寸と定む。是を同身寸と云ふなり。

【意訳】

尺寸の定義について男性は左手、女性は右手の、中指をまげて、中指の横紋の間の長さを1寸と定める。これを「同身寸」という。

【補足説明】

文章では分かりにくいですが、一般的な同身寸の一つですね。

同身寸の図

同身寸の図(引用:教科書執筆委員会(1992).経絡経穴概論 医道の日本社)

髪際を定むる事

【原文】

髪際を定むる事
一、両眉の正中より三寸上を前の髪際と定め、背中の大椎より三寸上を後の髪際と定むるなり。

【意訳】

髪際の定義
両眉の間、正中線上から3寸上を「前髪際」とする。
背中の大椎から3寸上を「後髪際」とする。

【補足説明】

前髪際と後髪際の定義ですね。

大椎を定むる事

【原文】

大椎を定むる事
一、両の肩と等しき節の下を大椎と定む。肩より上に在るをば除け肩より下に在るを算入るなり。

【意訳】

大椎の定義
両肩と同じ高さの椎骨の下を大椎と定義する。肩よりも上にある椎骨は数えず、下にある椎骨(胸椎と腰椎)を数えること。

【補足説明】

経穴を探す際の目安の椎骨についての説明です。


今回はここまでです。

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