針灸諸病の治例④/『鍼灸重宝記』本郷正豊著(19)

諸虫 もろもろのむし

虫は湿熱より生ず。腐草蛍となるがごとし。其証、𩞄雑、腹痛、涎沫を嘔吐し、面の色痿黄、眼眶、鼻の下青黒く、食少く、色黒く、痩せあるひは、寒熱咳嗽せしむ。

九虫は、一に伏虫、ながさ四寸、諸虫の長なり。
二に蛔虫、長さ一尺。動くときは清水を吐き、出るときは心痛す。もし心をつらぬくときんば人を殺す。
三に寸白、虫長さ一寸。動くときは、腹痛、腫聚り、清水を吐き、上り下り、おこりざめあり。心を傷るときは死す。
四に肉虫、ただれたる杏のごとし。人を煩満せしむ。
五に肺虫、蚕のごとし。人をして咳嗽せしむ。
六に胃虫、かわづに似たり。吐逆、をする。
七に弱虫、瓜のなかごのごとし。多く唾を吐く。
八に赤虫、生の肉のごとし。腸を鳴しむ。
九に蟯虫、細にして菜虫のごとし。疥癬、痔、瘍瘡を生ず。

『千金方』に曰く、五臓労するときは熱を生ず、熱するときは虫を生ず。心虫を、蚘と云。脾虫を、寸白と云。肺虫は、かいこのごとし。肝虫は、李のごとし。腎虫は寸々に切たる線のごとし。三虫は長虫、赤虫、蟯虫なり。諸虫みな、上半日は頭を上にむかふ。又、子のときより辰のときまでは、かしらを上にむかふといへり。

凡そ諸虫を治するに、寒熱虚実を察し、脉をわきまへつまびらかにして、針を行ふべし。
▲三陰交、三里、内関、陰谷、行間、太白、復溜、気海、脾兪、梁門、天枢、滑肉門。

虫の発りたるとき、痛みの上に刺すべからず。まづ足の穴にて気を下すべし。諸虫はみな気血のあつまり、邪気に感じ、その時節の気に応じて、色々のかたちをなす。気を引下すときは、虫おのづから治す。

積聚 はらのかたまり

肝の積を肥気といふ。左の脇にあり。面青く、両わきいたみ小腹に引。
心の積を伏梁といふ。臍の上におこり、胸の中に横たへ、腹熱し、面赤く、胸いきれ、咽かはき、不食し、やせて、吐血す。
脾の積を痞気といふ。臍の真中のとをりにあり。面の色黄にして、飢るときはかくれ、飽くときはあらはる。常に腸ふくれ、足はれ、泄瀉、嘔吐し、痩おとろふ。
肺の積を息賁といふ。右の脇にあり。面白、背いたみ、膚冷、皮の中時にいたみ、虫のはふがごとし。
腎の積を奔豚といふ。小腹にあり。おこるときは胸にのぼり、面黒く、飢るときはあらはれ、飽くときはかくるる。腰いたみ、骨ひゑ、目くらく、口かわく。

積に腹痛あり、痛まずして塊ありて不食するもあり。或は咳逆、咳嗽、短気、心痛をなす。
腹痛するときは、猥りに痛処に刺べからず。まづ、積ある処をよくおしやわらげ、其後いたむ処より一二寸ばかりわきに針すべし。若し痛みつよきとき、むざといたみのうへに刺せば、かへって痛みまし、人を害すこと多し。積にかまはず、わきをやわらげて、気を快くするときは、おのづから治す。
▲三里、陰谷、解谿、肺兪、膈兪、脾兪、三焦兪、期門、章門、中脘、気海、関元。

黄疽

五疽の分ありといへとも、皆これ脾胃、水穀、湿熱、相蒸すゆへに、黄を発する也。胸腹飽悶、身面目みな黄、小便黄渋、汗の衣を染ること黄栢の汁のごとし。たとへば麹のごとし。湿と熱とたたかひ、気ととのわざれば、鬱して疽となる。
 承満、梁門にいくたびも刺すべし。
 天枢、水分、気海、膈兪、肝兪、膽兪、脾兪、腎兪、胃兪に灸すべし。

水腫 はれやまひ

『内経』に曰く、水腫その本は腎にあり、そのすゑは肺にあり。みな水のつもりなり。故に水病は、下腫れ、腹大きに、上喘急をなし、臥すことを得ず。先づ腹よりはれ、後に手足はるるは治すべし。まづ手足より腫れ、後に腹はるるは治せず。もし肉かたく、掌たいらかなるは治せず。
 膈兪、肝兪、膽兪、脾兪、腎兪、通谷、石関、水分、天枢、気海。
 胃倉、合谷、石門、水溝、三里、復溜、四満、曲泉。
▲渾身浮腫は曲池、合谷、三里、内庭、行間、三陰交。
▲水腫は列缺、腕骨、間使、陽陵、陰谷、解谿、公孫、厲兌、冲陽、陰陵、胃兪。
▲四支浮腫は曲池、合谷、中渚、液門、三里、三陰交。
▲風腫身浮は解谿。
▲遍身腫満、飲食化せずは腎兪百壮、即痊。

脹満 かめばら

腎を水とし、脾土を堤とす。故に脾腎虚するときは腫脹をなす。遍身はるるを水腫とし、腹ばかり大にして鼓のごとく、面目手足腫れざるを脹満といひ、蠱脹ともいふ。脉洪大はよし、徴細はわろし。
 上院、三里、章門、陰谷、関元、期門、行間、脾兪、懸鐘、承満、復溜。
 三里、章門、脾兪、承満。
▲水脹脇満は陰陵泉。
▲水分に刺を禁ず。

消渇 かはきのやまひ

上消は邪熱、肺を燥して、多く水を飲み、食すくなく、大小便つねのごとし。中消は胃熱し脾陰虚す。飲食ともに多く、小便赤し。下消は腎虚し水乾く。多く水をのみ、小便膏の如くにしてしぶる。
▲水溝、承漿、金津玉液、曲池、太衝、行間、労宮、商丘、然谷、隠白。
 腎兪、中膂、意舎、小腸、膀胱、関元。
 中膂、意舎、照海、曲池、曲骨。

淋病 小便閉

淋は小便しぶり、痛むなり。熱、膀胱に客とし、鬱結して滲泄すること能はざるがゆえに淋をなす。
五種あり。熱淋は小便赤くしぶり、痛みはなはだし。沙石淋は茎中いたみ、努力ときは沙石のごとし。気淋は小便しぶり、いたみ、つねに餘瀝ありて尽きず。血淋は尿血結熱して、茎痛をなす。膏淋は尿、膏に似たり。
労淋は、労倦すればすなはち発る。又、色欲すでにきざして強留して泄さず、小便急に乗じて溺を忍ゆれば多く淋を致す。
 関元、夾溪、三陰交。
 腎兪、膀胱、小腸、中髎、三陰交。炒塩を臍中に填み満て、大艾炷七壮すべし。
▲陰寒甚して小便通ぜず、陰嚢縮入、小腹痛み、死せんとするには石門に灸す。

溺濁 いばりにごる

赤濁は血に属す、思慮を過し、心虚して熱するなり。白濁は気に属す、房労をすごし腎虚して寒ずるなり。
▲腎兪、気海、関元、脾兪、三里、三陰交。

遺溺 いばりたれ

凡そ遺尿は小腸、膀胱の陽気衰へ、脱するゆへなり。経に曰く、膀胱利せざれば癃をなす、約せざれば遺をなす。又曰く、下焦に血をたくはへ、虚労し、内損すれび小便おのづから遺て知らず。下焦虚寒し、水液を温制することあたはざれば、小便たへずながれいづる。
▲腎兪、気海、小腸兪、絶骨、三里、関元。

遣精 もうざうをみる

夜夢に人と交り、感じて精を泄すを夢遺といふ。夢に因らずして、精おのづから出るを精滑といふ。心腎内虚に因つて固く守ることあたはず。みな相火動ずるゆへなり。又久しく交合せず、精満て溢るものは病にあらず。
 脾兪、肺兪、腎兪、気海、三里。
 関元、曲泉、然谷、大赫、三陰交。

秘結 だいべんつうぜず

風秘は風痰大腸に結して通ぜず。風を発散すべし。
気秘は気とどこをり、後重せまり、いたみ、煩悶、脹満す。気をめぐらすべし。
寒秘は腹冷、痃癖、結滞す。温補すべし。
虚秘は津液虚し、血少くしてかわき渋る。潤し滑にすべし。
熱秘は実熱、気ふさがり、心満、腹脹り、煩渇す。熱をすずしくすべし。
 肝兪、胆兪、腎兪、大腸兪、関元。
 天枢、滑肉門、石門、陰交、承山。

痔漏 いぼぢ、あなぢ

尻の穴に瘡を生じて傷れず、あるひは傷れても少にして愈えやすきをと云。瘡潰て竅を作し、膿血出て、愈えがたきをといふ。

痔に六種あり。牡痔は肛門の邊に肉珠を生じて、鼠の奶のごとくにてうみ血を出す。
牝痔は瘡を生じ、腫れいたみ、四五日にうみ潰えて即ち散る。
脉痔は尻の回りにつぶつぶと生じ、いたみ、かゆく、膿血を出す。
腸痔は肛門の中に結核を生じ、血を出し、寒熱往来し、溷に行ごとに脱肛をなす。
血痔は大便に清血を下すこと止まず。
酒痔は酒をのむごとに瘡出、血をながす。

 百会、気海、腎兪、大腸兪、長強、膀胱兪、三陰交。
 秩辺、委中、陽輔。▲血痔には承山、復溜。▲腫痛には飛陽。▲漏には長強、商丘、承扶。

脱肛

肛門の飜り出ずるなり。肛は大陽の門なり。大腸は肺の腑なるによって、肺実すれば、秘結し、肺虚寒すれば脱出す。又、経に曰く、腎は穴を二陰にひらくと。故に腎虚する者、多く此症あり。
▲命門兪、腎兪、長強、百会、膀胱に灸。


底本:『鍼灸重宝記綱目』(京都大学附属図書館所蔵)
図は画像データより抽出し一部加工

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