針灸諸病の治例⑤/『鍼灸重宝記』本郷正豊著(20)

頭痛 かしらいたむ

頭は諸陽経の首也、風寒の頭痛は鼻塞り、悪かん発熱す。湿は頭重し、食滞は額の正中いたむ。左辺痛は気虚、右は血虚、夜痛み苦しく眉輪骨いたむは痰火なり。真頭痛は脳巓の底にとをり、痛みはなはだしく、手足冷、臂とひざより上までひへ上るは、半日に死す。
▲百会、風池、風府、合谷、攅竹、曲池、腕骨、京骨、合骨、衝陽、風市、三里。
▲頭重く鼻塞るには、百会に刺すべし。
▲目眩き、頭のかわ腫るには前頂に刺す。
▲項強り、悪寒せば、後頂に針すべし。

痃癖 げんぺき 🔗

肩の痛むこと、或は痰により、或は風寒湿によるといへども、多くは気血つかへたるゆへなり。此処に刺すこと秘伝あり。まづ手にて肩を押しひねり、撫くだし、気を開かせて、後に刺すべし。深きときはあやまちあり、若みだりに刺すときは人を害す。これを刺すには、針をふして皮肉の間をすべし、少しも肉を刺すことなかれ。肩背には撚針を用べからず、砭針をもちゆべし。管に入れてはぢき下し、皮をやぶりて気血をぬく。その効速かなり、針を刺したるあとを又管にて推すべし、かならず血出て邪気さるなり。上古には石の尖にて痛み痺る処を刺し、脉をやぶり邪をさる。『鍼経』に砭石をもって膿血を出すとあり。

手指 てのゆび

手の痛は痰により、風湿による。老人は気血衰弱して、肢をやしなはざるゆへなり。かいなの骨節ふとり、大にして、節間ほそくなり。指も亦かくの如くなるは、痰と血の不足なり。
▲曲池、手の三里、肩髃、列缺、尺沢。

心痛 むねいたみ

心痛に九種あり。虫痛、疰痛、風痛、悸痛、食痛、飲痛、寒痛、熱痛、去来痛也。厥心痛は、寒邪心包絡に客たり。真心痛は、寒邪心の臓を傷る、いたみはなはだしく、手足青くして、臂膝を過るは半日に死す。
▲胸の中、剌すがごとくいたみ、手足ひへ、唇青く、脉沈なるに太谿に刺してよし。
▲胸の中満ちふくれ、いきどをしく、缺盆より引つり、痛み死せんとするは、行間、尺沢に刺してよし。
▲胸つよくいたみ、死せんとするには然谷、湧泉に刺す。
▲神門、健里、大都、太白、中脘に撰刺。灸は、厲兌、膈兪、肺兪、太谿、中脘、下脘、三里。

腹痛 はらのいたみ

腹痛に九種あり。綿々として増減なきは寒也。乍痛乍止は熱痛なり。食するときは腹痛み泄して、後に痛減ずるは宿食なり。時に痛み、時に止み、面白く、唇紅にして、飢るときは、痛みはなはだしく、食するときは、しばらく止まば、虫痛なり。痛処移らざるは死血なり。脇下に引きいたみ声あるは、痰飲なり。手にて腹を按すに軟に痛やわらぐは虚なり。腹硬く手にて按ときは、いよいよいたむは実痛なり。
いづれの腹痛にも、先腹に針灸をすれば、かへって痛みますものなり。必ずまづ足の穴に針灸して、痛み和ぎてのち腹に刺すべし。尋常のかろき腹痛には、まづ腹、滑肉門を重く押へて刺すべし。
▲もし腹痛はなはだしく、目眩き死せんとするには隠白、湧泉に針して正気を付べし。
▲上腕、中脘、巨闕、不容、天枢、章門、気海、崑崙、太白、太淵、三陰交。

脇痛 わきいたみ

両脇痛は肝火盛に本、気、実するなり。咳嗽していたみ走注し、痰の声あるは痰なり、左の脇に塊ありて痛処を移さざるは死血、右の脇に塊ありて飽悶するは食積なり。肝積は左に在、肺積は右にあり。
 日月、京門、腹哀、風市、章門、丘墟、中瀆、期門。
 肝兪、絶骨、風市。

腰痛 こしのいたみ

腰は一身の大関、六経の懸るところ。太陽腰痛は、項背尻に引き、せなか重し。陽明の腰痛は、左右へかへりみられず強りかなしむ。少陽の腰痛は針にて皮をさくがごとし俛仰ならず、太陰の腰痛は、熱して腰に横木あるが如く遺尿す。少陰の腰痛は、張弓のごとく、黙々として心わるし。脾に熱たたかふときは、腰痛み、俛仰せられず、腹満て泄す。腎に邪熱あれば、腰痛み、脛しびれ、舌かはく。又日く腰は腎の府、多くは色欲を過し、腎を労傷すれば、常に腰を痛ましむ。
日軽く夜重きは瘀血なり。陰雨に遇ひ久しく坐して発るは湿なり。腰背重く走注串き痛むは痰なり。頭痛悪寒発熱するは、風寒による。腰冷るは中寒なり。
▲腎兪、膀胱、腰兪、志室、崑崙に灸し。
▲崑崙、肩井、環跳、陰市、三里、陽輔に針。
▲委中より血をとるべし。
▲両腿水の如く冷え腰脇肋いたむは尺沢、三陰交、合谷、陰陵、行間、三里、手の三里。
▲腰痛動きがたきは風市、委中、行間。
▲腰脊強痛には腰兪、委中、湧泉、小腸兪、膀胱兪。

痛風 つうふう

痛風は、遍身の骨、節、走注していたむ也。気血虚弱し、風、寒、湿に感じ、或は、痰、経絡に流れ注ぎ関節利せず。
 百会、環跳に剌すべし。
 肩臂いたまば、肩髃、曲池にすべし。

脚気 あしのいたみ

男は腎虚、女は血海の虚より発る。或は、風、寒、暑、湿をうけて生ず。走りいたむ処、さだまらざるは、風なり。筋、拘急してひきさく如くに痛むは寒なり。腫て重きは湿なり。手足ねまり、熱し、燥渇て、便実は、暑熱なり。骨、節、大きになり、節の間ほそくなるを鶴膝風と云。治しがたし。脚気腹に入るときは大事なり。
 三里、三陰交、風市、外踝、内踝。
 公孫、衝陽、委中、懸鐘、飛陽、又痛む上に針を剌すべし。

疝気 せんき

凡そ疝気は、湿熱、痰積、流れ下て病をなす。或は虚寒により、食積によって発る。みな肝経に帰す。宜しく肝経を通ずべし。又腎経を干すことなかれ。

七疝の症
厥仙は、心痛し、足冷、食を吐く。
瘕疝は、腹中に、気積みかたまり、臂のごとし。
寒疝は、冷たる食を用ゆれば、にはかに心腹ひきいたむ、
気疝は、忽にみち、忽に減じていたむ。
盤疝は、腹中いたみ、臍の旁にひく。
附疝は、腹いたみ、臍の下につらなり、積聚あり。
狼疝は、ほがみと、陰へ引き痛む。

 天枢、大衝、大敦、腹結、気海、関元、石門、滑肉門、三陰交。
 章門、三陰交、大敦、気衝、肝兪、
▲秘灸 病人の口をふさがしめ、口のひろさの寸を三つとり、それを三角に、△此の如くして、上の角を、臍の下廉にあて、下の両角に灸すること、左右各二十一壮すべし、七疝ともに奇妙なり。
陰卯ふぐり偏大なるは、関元に灸百壮すべし。

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底本:『鍼灸重宝記綱目』(京都大学附属図書館所蔵)
図は画像データより抽出し一部加工

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