針灸諸病の治例③/『鍼灸重宝記』本郷正豊著(18)

諸気 気の脉は沈なり

経に曰く、百病は気より生ず。喜んで心を傷るときは、其気散じ、腎気乗ず。怒つて肝を傷るときは、其気のぼり、肺気乗ず。憂えて肺を傷るときは、その気聚り、心気乗ず。思うて肺を傷るときは、其気結れ、肝気乗ず。恐て腎を傷るときは、其気怯く、脾気乗ず。暑き則は気泄れ、寒ずるときは気おさまる。もし、恬憺虚無、精神内に守れば、病何によってか生せむ。
 肺兪、神堂、膈兪、肝兪、三里。
 承満、梁門に刺すべし。

鬱証

気血通和すれば百病生ぜず。一つも結聚するときは六鬱となる。
気鬱は腹脇脹満、刺すごとく、痛みて舒ず、脉沈也。
血鬱は大小便紅に、紫血を吐き、いたみ処を移ず、脉数濇なり。
食鬱噯気、呑酸、胸膜飽悶、いたみ、不食、右脉盛なり。
痰鬱は喘満気急、痰嗽胸脇いたみ、脉滑なり。
熱鬱は小便赤く渋り、五心熱し、口苦く、舌乾き、脉数なり。
湿鬱は身節走りいたみ、陰雨に遇へば発り、脉濡なり。
▲膏肓、神道、肝兪、不容、梁門。

癆瘵 きのかた

癆瘵の証ただ一端にあらす。気体虚弱し、心腎を労傷してこれを得たり。心は血を主り、腎は精を主る。精血かはき、相火たかぶりて、咳嗽、吐血、遺精、盗汗、悪かん、発熱、五心煩熱、食少く、つかれ痩、日脯にはなはだし。此証、労虫ありて骨をくらひ、相伝て親類を滅すを伝尸と云。
▲梁門をめぐりて幾度も刺す。
▲患門、四花、膏肓、章門、気海、三里に灸。

吐血衂血、欬血、唾血、咯血

陽盛にして陰虚するゆへに、血下に行らず、炎上して口鼻より出るなり。或は一椀ばかり吐て、別にわづらひなきは、腹中の宛血あるおり、ふし熱の傷れたるなり。くるしからず。吐血は胃より出ず。全く血を吐く。先づ痰を吐きて、後に血を吐くは積熱なり。先づ血を吐て、後痰をはくは陰虚なり、治しがたし。衂血、欬血は肺より出。唾血、咯血は腎より出ずる。
▲曲沢、神門、魚際。
▲嘔血は太淵、長強。
▲吐血は前谷、上脘、丹田、隠白、脾兪、肝兪。
▲衂血は譩譆、二間、三間、風府、委中、合谷。
▲欬血は肝兪、太淵。
▲唾血は肝兪。

下血 ちをくだす

風、寒、湿、熱、臓腑に入て腸胃をやぶり、血を大腸に引て、下血をなす。
▲腎兪、気海、陽関、関元、三陰交、絶骨。

虚損 よはみ

凡そ元気素より弱く、或は起居宜しきを失ひ、あるひは飲食労倦し、心を用こと太過によって、真気を損じ、形體やせ、眼かすみ、歯動き、髪落、耳鳴とをく、腰膝力なく、小便しげく、汗多出、あるひは遺精白濁、内熱、脯熱、口乾き、咽渇き、心神寧からず、寤て寝られず、小便短少、餘瀝、肢體寒をおそれ、鼻気急促、眩暈、健忘、四肢倦怠等の証を顕す。
 肺兪、肝兪、脾兪、腎兪、三里、膏肓。
 梁門と中脘といくたびも刺すべし。

発散によらずして自ら出るを自汗という、陽虚なり。睡中におぼへず汗出るを盗汗という陰虚なり。
▲盗汗には腎兪、自汗には脾兪、肺兪に灸すべし。
▲合谷、曲池、湧泉、然谷に刺すべし。

諸熱

五臓の熱証
熱すれば、皮毛熱し、喘咳寒熱す。
熱すれば、脉熱し、煩熱心痛し、手の中熱す。
熱すれば、肌肉熱し、夜はなはだしく、怠惰して、四肢収らず。
熱は、筋熱し、寅卯の刻はなはだし、脉弦にして、多く怒り、手足熱して、筋なゆる。
熱すれば、骨髄熱し、骨の中を虫くらふ、起きて居られず。

諸経の熱証
面熱するは足陽明。
口熱し舌乾くは足少陰。
耳の前熱するは手太陽。
掌熱するは手三陰。
足の下熱しいたむは足少陰。
身熱し肌いたむは手少陰。
洒浙として寒熱せば手太陰。
中熱し喘するは足少陰。
身前熱するは足陽明。
一身熱し狂乱し譫言は足陽明。
肩背、足の小指の外熱するは足太陽。
肩の上熱するは手太陽也。

▲昼熱するは、熱、陽分にあり。夜発るは、熱、陰分にあり。昼夜同じく熱するは、熱、血室に入り、重陽無陰なり。陰を補ひ陽を瀉すべし。
▲梁門、承満、天枢、気海、針いくたびも刺してよし。又尺沢、委中より血をとる。

健忘 怔忡 驚悸

精神短少なる者、心をもちゆることを過し、恍惚として、多く事を忘るるを健忘といふ。
怔忡は心中惕々として跳動す。
驚悸は驚怖して寧からず、人の捕へんとするがごとし。
みな心脾の虚損なり。或は痰、心竅に迷うて事をわするる者あり。
 膈兪、肝兪、肺兪、脾兪、腎兪。
 神門、大陵、巨闕、上脘、三里。

眩量 かしらくるめき、めくるめく

諸の眩暈はみな肝に属す。風邪上り攻め、雍りて眩暈をなし、あるひは気虚失血、あるひは陰虚火動、みなよく此の証をなす。風眩は脉浮にして汗あり。痰は脉弦にして滑なり。
 上星、風池、天柱、臨泣、風府、陽谷、中渚、梁門。
 上星、顖会、前頂、百会、風門、厥陰。

中悪 あしきものにあてらるる

中悪とは人の精神衰へ、弱くして鬼邪の気、卒に中るゆへなり。其のかたち、卒然として胸腹刺すごとく痛み、悶乱して死す。あるひは吐血するもあり。
▲先づ幽門、百会、関元、気海に灸し、安息香を豆粒ほど火に入、煙を呑すべし。

癲癇 くつち

癲癇は元、母の胎内に在りて、驚を受く。五種あって、五臓に応ずといへども、心の一臓に帰す。驚ときは、神、舎を守らず。舎、空しき則んば、痰涎、心竅に迷ひ、ふさぎ、たましゐ出入せざるによりて、卒に倒臥て、手足びくめかし、口眼引つり、あるひはさけび、よばはり、沫を吐く。暫くにしてよみがへる。
 大推、水溝、百会、神門、金門、巨闕、崑崙、筋縮、湧泉。
 百会、鳩尾、上脘、陽蹻(ひるおこる)、陰蹻(よるおこる)に。

狂乱 きちがい

狂はくるひ、みだれて、正しく定ならざる也。あるひは痰火実盛、あるひは心血不足にして、憂驚によって志をうしなひ、此の証をなす。喜んで笑は心火盛なる也。
 尺沢、間使、天井、百会、神門、中脘。
 承山、風池、曲池、尺沢、神門、上院。


底本:『鍼灸重宝記綱目』(京都大学附属図書館所蔵)
図は画像データより抽出し一部加工

この記事へのコメント