針灸諸病の治例②/『鍼灸重宝記』本郷正豊著(17)

痢病 しぶりはら

赤白ともに湿熱と作して治すべし。古へに腸澼といひ、滞下といふは、みな今の痢病なり。脉滑沈小はよし、弦急は死す。もつはら血を下し、屋の雨漏のごとく、魚の脳髄の如くなるは、皆死す。
▲脾兪、関元、腎兪、復溜、長強、大腸兪、小腸兪、中脘、足三里、太谿に灸すべし。おしなべて気海、水分、天枢に針して奇妙なり。いづれも五分づつ、いくたびも刺すなり。ふかく刺すべからず。

泄瀉 くだりはら

胃泄は、胃虚して剋化せず、黄色にて食物とろけず。脾泄は、脾虚して五臓に分散せざるゆへに、腹脹り、嘔逆す。大腸泄は、大腸は寒邪あるにより、食後に腸いたむ。小腸泄は、小腸いたみ、膿血をまじへくだして、小便しげし。大瘕泄は、裏急にして、しぶりて通じがたし、陰茎の中いたむ。五泄の証によりて治す。
 関元、復溜、長強、腹哀、天枢
 三里、気舎、中脘、大腸、小腸兪、脾兪、腎兪。おのおのえらびもちゆべし。

霍乱 かくらん 🔗

霍乱は、外暑熱に感じ、内飲食生冷に傷られ、たちまち心腹疼み、吐瀉、発熱、悪かん、頭痛、眩暈、煩燥し、手足ひへ、脉沈にして、死せんとす。転筋腹に入るものは死す。又吐せず、瀉せず、悶乱するを乾霍乱という、治しがたし。
転筋は卒に吐瀉して津液かはき、脉とぢ、筋つづまり、攣り、はなはだしきは嚢縮り、舌巻くときは治しかたし。男は手にて其陰嚢を引き、女は両の乳を引て、中ヘ一処に寄すべし。これ妙法なり。
腹脹、急にいたむときは、針をまづ幽門に刺すべし。此穴に刺せば、かならず吐逆するぞ。しかれども痛増して、目など見つむることあり、苦しからず、さて気海・天枢に針すべし。
霍乱には、陽陵泉、支溝、尺沢、承山。
腹痛には、委中。
吐瀉には、三里、関冲。
胸満悶え、吐せずは、幽門に針すべし。

傷食 しょくだたり

飲食停滞するときは、脾胃傷れて、腹痛み、吐瀉をなし、或は悪寒、発熱、づつうして、傷寒のごとし。外傷は、左の脉盛に、手の背熱し、鼻塞り、頭の角いたみ、身疼む。内傷は、右の脉盛に、手中熱し、額の正中いたみ、腹いたみ、不食す。
▲脾兪、三里に灸し。
▲梁門、天枢、通谷、中脘に針すべし。

嘔吐 ゑづき

胃虚して吐する者あり、胃寒して吐する者あり、暑に犯さるる者あり、飲食に傷られ、気結れて、痰聚り、みなよく人をして嘔吐をなす。
 気海、風池、太淵、三里。
 胃兪、三里。

膈噎 翻胃 かく

憂思、労気より生ず。膈とは、食飲くだらずして噎るなり。膈とは喉のおくに何やらさはり、吐ども出でず、呑めども下らず、痰鬱によって気鬱す、食をそのまま吐逆す。翻胃は朝食する物を夕に吐し、夕に食して晨に吐するは、病ふかくして治せず。
▲天突、石関、三里、胃兪、胃脘、膈兪、水分、気海、譩譆、胃倉。

咳逆 一に曰く吃逆 しやくり

発吃しゃくりは気逆上衝して声をなす也。又、胃火上衝して、逆す。口にしたがひ膈より起るは、治し易し。臍下より上るは陰火上衝く、治しがたし。
▲期門に針し。脾兪、中脘、乳根に灸す。

喘促 ぜり、すだき

肺虚寒の喘あり、肺実熱の喘あり、水気肺に乗じて喘し、気滞り肺脹りて喘し、気急の喘、胃虚の喘、陰虚、気虚。痰喘、其病を受ること同からず。
 中府、雲門、天府、華蓋、肺兪。
 中脘、期門、章門、肺兪。

痰飲 かすはき

夫れ痰は湿に属す。津液の化する所なり。痰の患いたること、喘をなし、咳をなし、嘔をなし、あるひは嘈雑、怔忡、驚怖し、寒熱し、痛み腫れ、痞、塞壅、盛四肢不仁し、口眼瞤動き、眉稜、耳輪いたみ、かゆく、膈脇の間に声あり。あるひは背心一点氷のごとく冷へ、肩項いたみ、咽にねばり付て吐ども出ず、呑ども下らず。みな胃虚して肺を摂することあたはず。あるひは四気七傷に犯され、気塞り、痰聚りて然らしむ。
▲不容、承満、幽門、通谷、風門、膈兪、肝兪、中瀆、環跳、肺兪、三里。

咳嗽 しはぶき せき たぐる

咳は声ありて痰なし、肺気やぶれて涼しからず。嗽は痰ありて声なし、脾湿その痰を動するゆなり。あるひは風寒湿熱の邪に感じ、あるひは陰虚火動によって労咳をなし、水うかれて痰となり、みなよく咳嗽せしむ。
肺兪、肩井、少商、然谷、肝兪、期門、行間、廉泉に灸し、すべて不容、梁門に針す。
▲肺咳は手太淵。
▲脾咳は足太白。
▲腎咳は足太谿。
▲多く眠るには三里。
▲面赤く熱咳には支溝。


底本:『鍼灸重宝記綱目』(京都大学附属図書館所蔵)
図は画像データより抽出し一部加工

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