『脈経』王叔和譔(巻第一)⑦ ~脈診の原典~

両手六脈の五臓六腑陰陽逆順の主る所 第七

脉法讃に云う。肝心は左に出で、脾肺は右に出でる。腎と命門と倶に尺部に出る。魂魄穀神、皆寸口に見る。
左は司官を主り、右は司府を主る。
左大は男に順。右大は女に順。
関前一分、人命の主。
左を人迎と為し、右を気口と為す。
神門は訣断しふたつながら関後に在り。人、二脈無れば、病死して愈えず。
諸経の損減、おのおの、其の部に随いて、按じて陰陽を察る。誰にか先後せん。
陰病は官を治し、陽病は府を治す。
奇邪の舎る所、如何にして捕取せんや。つまびらかにして知るものは鍼入れて病愈えん。

心の部は左手の関前寸口に在る是れなり。即ち手の少陰経なり。手の太陽と表裏を為す。小腸を以て合して府と為して上焦に合す。名づけて神庭と曰う。亀尾下五分に在り。

肝の部は左手の関上に在る是れなり。足の厥陰経なり。足の少陽と表裏を為す。胆を以て合して府と為して中焦に合す。名づけて胞門と曰う。大倉左右三寸に在り。

腎の部は左手の関後尺中に在る是なり。足の少陰経なり。足の太陽と表裏を為す。膀胱を以て合して府と為して下焦に合す。関元の左に在り。

肺の部は右手関前寸口に在る是なり。手の太陰経なり。手の陽明と表裏を為す。大腸を以て合して府と為して、上焦に合す。呼吸の府と名づく。雲門に在り。

脾の部は右手の関上に在る是なり。足の太陰経なり。足の陽明と表裏を為す。胃を以て合して府と為して、中焦脾胃の間に合す。名づけて章門と曰う。季脇の前一寸半に在り。

腎の部は右手関後尺中に在る是なり。足の少陰経なり。足太陽と表裏を為す。膀胱を以合して府と為して、下焦に合す。関元の右に在り。左は腎に属し、右は子戸と為す。名づけて三焦と曰う。


【メモ】
人迎気口診が出てくる最初の古典。六部定位脈診の臓腑配当についても記載。
亀尾:亀の註として「一作鳩」との記載あり。よって鳩尾(任脈)のこと。
大倉:中脘(任脈)の別名
季脇:章門(肝経)の別名

原文

兩手六脉所主五藏六腑隂陽逆順第七
脉法贊云肝心出左脾肺出右腎與命門俱出尺部
魂魄穀神皆見寸口左主司官右主司府左大順男
右大順女關前一分人命之主左爲人迎右爲氣口
神門訣斷兩在關後人無二脉病死不愈諸經損減
各隨其部察按隂陽誰與先後[1]隂病
治官陽病治府竒邪所舍如何捕取審而知者鍼入
病愈
心部在左手關前寸口是也即手少隂經也與手太
陽爲表裏以小腸合爲府合於上焦名曰神庭在龜[2]
尾下五分
肝部在左手關上是也足厥隂經也與足少陽爲表
裏以膽合爲府合於中焦名曰胞門[3]在大倉左
右三寸
腎部在左手關後尺中是也足少隂經也與足太陽
爲表裏以膀胱合爲府合於下焦在關元左
肺部在右手關前寸口是也手太隂經也與手陽明
爲表裏以大腸合爲府合於上焦名呼吸之府在雲門
脾部在右手關上是也足太隂經也與足陽明爲表
裏以胃合爲府合於中焦脾胃之間名曰章門在季
脇前一寸半
腎部在右手關後尺中是也足少隂經也與足太陽
爲表裏以膀胱合爲府合於下焦在關元右左屬腎
右爲子戶名曰三焦

注釈
[1] ^ : 千金云三隂三陽誰先誰後
[2] ^ : 一作鳩
[3] ^ : 一作少陽

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底本:『脈経 仿宋何大任本』北里大学東洋医学総合研究所医史学研究部・日本内経医学会
参考:『王叔和脉経』京都大学附属図書館所蔵

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