針灸諸病の治例⑧/『鍼灸重宝記』本郷正豊著(23)

小児の科 ちごのりやうじ

小児の病を治すること、古人みな難しとす。誠に証を問うの一法を闕、故に、これを唖科と云。しかのみならず、脉気いまだ定まらずして、浮沈極めて決しがたし。面部の外侯、虎口の説。ともに、闕べからず、比等に依らざれば、其証を極ること成りがたし。

小児の脉法

面部形色図
▲左の腮は、肝に属す。色青きを順とし、白きを逆とす。赤きは肝経の風熱を主どり、青黒きは驚風腹痛をつかさどり、淡赤きは、潮熱、痰嗽をつかさどる。
▲右の腮は、肺に属す。色白きを順とし、赤きを逆とす。赤きこと甚しきは、咳嗽、喘息を主る。その色頦へ伝れば、小便赤くしぶり、あるひは通ぜず。
▲額は心に属す。色赤きを順とし、黒きを逆とす。青黒きは、驚風、腹いたみ、契瘲、啼をつかさどる。少し黄なるは盗汗、驚疳、骨熱することをつかさどる。
▲鼻は脾に属す。色黄なるを順とし、青を逆とす。赤きは脾経の虚熱を主る。ふかく黄なるは小便通ぜず、あるひは鼻かわき、衂血いづることをなす。
▲頦は腎に属す。色黒きを順とし、黄なるを逆とす。赤きは腎と膀胱とに熱ありて、小便通ぜざることを主どる。小児三歳より内は、虎口三関の紋理を見て、病をしるべし。

虎口三関之図
男は左、女は右の手の食指の本の節を風関とし、中の節を気関とし、第三の節を命関とす。その紋、風関にあれば、病あさく治し易し。気関にあれば、病重しとす。命関にあれば、病すでに深く治しがたし。
○紋の色、むらさきは熱とし、○赤きは傷寒とす。○青きは驚風をつかさどる。○白きは疳の病。○黒きは悪気にあてらるる。○黄なるは脾の困みつかるるなり。○淡赤きは寒熱表にあり。○深紅は傷寒、痘疹を主とる。○紋乱るるときは、病久し。○細なるときは、腹いたみ、多く啼き、乳食消せず。麁くして、直に指さきに入るは、驚風をつかさどる悪証なり。黒く墨のごとくなるは、諸病ともに治しがたし。かならず死す。右は心肝に応じ、左は肺脾に応ず。

魚剌の形は驚風痰熱を主る。
懸針の形は傷鳳泄瀉積熱を主る。
水字の形は食積咳嗽驚風と疳。
乙字の形は肝の病きやうふうを主る。
虫の形は肝虫大腸穢積を主る。
環の形は疳癪吐逆をつかさどる。
珠のかたちは死をつかさどるなり。
乱れたる紋は䖝をつかさどる也。

小児三歳より後は、医者の大指ばかりにて、児の寸関尺を按し候ふなり。
脉の数、呼吸の間に六七至るを常の脉とす。是よりかず多きを熱とし、是よりかずすくなきを寒とするなり。
浮数なるは、風熱とす。○虚濡は驚風。○緊弦は腹いたむ。○弦急は気和せず。○牢実は大便結す。○沈細は冷。○緩小沈細なるを宿食消せずとす。○沈遅は虚とす。○沈実を積とす。○単に細は疳労なり。右寸関尺の脉法は、二歳よりうちといふとも、浮沈遅数を弁へ、寒熱虚実を察すべし。十二三歳より以後は、大人と法を同じうすべし。

驚風

急驚風は、風熱よりおこる。或は卒に大声を聞き、あるひはころびて驚き、搐搦き、身熱し、面赤く、口渇き、いき熱く、大小便黄赤く、目を見つめ、反張る。
前頂に灸、若し愈えずは攅竹、人中各三壮。慢驚風は久病の後、あるひは吐瀉の後、脾胃虚し、身冷、口鼻のいき涼しく、手足びくめき、昏睡して晴をあらはし発る時は、目をみつめ、涎を流す。
▲尺沢七壮、顖会、百会各三壮灸すべし。
▲驚風には腕骨(最真也)、百会、前頂、上星、水溝、合谷、尺沢、中脘、章門、少海、長強。急驚には針すべし。慢驚には灸すべし。

驚癇 てんかん くつち

大人は癲と云。小児は癇といふ。その証、目眩き、搐搦し、涎沫を吐き、たちまち地に仆れて人をしらず。風癇は手足をなげ口喎む。驚癇は頭目を㾱し、口目を吊し、あるひは昏く、あるひは邪視す。食癇は肢搐き、角弓反張、大声し、食を吐す。飲癇は手足搐動し、食飽くことなく、あるひは数日食せず。寝中に発る。飽くときにもおこる。痰癇は狂のごとく、耳きこへず、目みへず、夢のごとく、酔たるごとくなり。又日く、犬癇は反折、上竄、犬叫をなすは肝也。牛癇は目直視、腹満、牛叫するは脾也。雞癇は驚、跳反折、手縦、雞叫するは肺なり。猪癇は尸のごとく、沫を吐き、猪叫するは腎なり。羊癇は目瞪み、舌を吐き、羊叫をなすは心なり。
▲驚癇は頂上旋毛の中三壮、耳の後、青絡三壮。
▲風癇は百会、崑崙、絲竹空。
▲癲癇、驚、目まひ、角弓反張に神庭七壮。
▲驚癇まづ驚き、怖れ、啼叫て、おこるは、後頂、百会三壮、耳後の青筋の脉。
▲同く舌を吐き、沫を出すには少衝三壮。
▲風癇、中風、角弓反張、多く哭き語言択ばず、発るに時節なし、盛なるときんば、涎沫を吐くには百会七壮。
▲同く指を屈め物を数るごとくなるは、鼻上髪際三壮。
▲五癇は水溝、百会、神門、金門、崑崙。
▲猪癇羊癇は、巨闕三壮灸して全功あり。
▲羊癇には九推の下節の間三壮、又法、大推の上三壮。
▲馬癇は僕参三壮、風府臍中各三壮。
▲犬癇には両手の心、足の太陽の助戸、各一壮。
▲雞癇は足の諸陽経の穴、三臨。
▲食癇は、鳩尾の上五分、灸三壮すべし。
▲猪癇は、尸厥のごとく、沫を吐くは巨闕二壮。
▲牛癇は鳩尾三壮、大推三壮。
▲中悪、狐魅、てんかん、きやうふうは鬼哭に灸。

五疳

▲肝疳は、頭を揺がし、目しぼめき、目を揉み、汗を流し、俛き伏し、筋青く、身も青し、髪立、筋をいたみ、痩羸るる。
▲心疳は、面赤く、身熱し、咽渇き、小便赤く、鼻下ただれ、腹脹、口瘡虚、驚く。
▲肺疳は、咳嗽多く、喘き、鼻を揉み、爪を咬み、寒熱、鼻瘡、身白色、腹脹。
▲腎疳は、躰痩、身に瘡疥あり、寒熱し、雀目、足冷、嚢しめり、水を好み、声かるる。
▲脾疳は、身黄み、肚大に、泄瀉、不食し、土を吃ひ、地に臥すことを好む。
▲五疳ともに肝兪、脾兪、不容、章門に灸すべし。
▲疳にて、痩せ、脱肛、咽渇くには、尾翆骨の上三寸陥中三壮、午時に灸す。虫出て兪る。三伏中、楊の煎湯にて浴す。疳目には合谷七壮灸すべし。
▲牙疳は、即時に腐落る。承漿、針或は灸。夏痩せするには、臍上一寸に七壮灸すべし。
▲腹脹、手足腫れたるには、臍の上一寸に七壮。

癖積 かたかい

癖積、久しく消ぜずは中脘、章門に七壮、命門兪十四壮。賁豚、身やせ、懈惰して、肩せなか挙らずは、章門に灸すべし。
▲癥瘕、背強り、相引くには、長強三十壮灸。
▲脇の下、満、瀉痢、躰重く、四肢収らず、痃癖、積聚、腹いたみ、不食、腹はりて背に引き、多く食しても、漸々に黄に痩るは、▲脾の兪七壮灸すべし。

瘧疾 おこり 黄疸

▲痰瘧、そぞろ寒く、熱、さしひき、脾兪七壮。
▲黄疽には、脾兪三壮灸すべし。

吐瀉 あげくだし

▲食傷によって、吐瀉し、腹いたむには上脘、中脘に刺すべし。
▲卒に肚いたみ、皮、青黒は、臍の上下、左右各半寸づつ、四穴、灸三壮づつ、鳩尾一寸三壮。
▲瀉痢には神闕。▲冷痢には臍穴二寸三寸。
▲吐乳には中庭に灸一壮、壇中。

初生雑病 はじめてうまるる

▲初生乳を呑ざるは承漿、頬車、璇璣。
▲初生、尻の穴なきは、三稜鍼にて刺しうがつべし。ふかく刺べからず。
▲生れて、七日のうち、口中、齦舌の上に、粟粒のごとくなるもの出て、白沫を吐き、啼て、乳をのまず。これを臍風、撮口といふ。絹を指にまき、温湯にひたし、そろそろと擦破り、紅をぬるべし。若し此のごとくせざれば、忽ち死するなり。然谷に灸三壮、あるひは針三分、血を見す。立効あり。顖門合ざるは、臍の上下各五分二穴に九壮。
▲夜啼は百会に灸三壮、中脘に針すべし。
▲大便通ぜずは、大腸兪、神闕に灸す。
▲小便通ぜずは、関元、石門、中極に針す。
▲脱肛は、長強三壮、臍中三壮、あるひは年の数。
▲久しく瘥ざるは百会七壮灸すべし。
▲脱肛、瀉血は亀尾に一壮すべし。
▲重舌は、舌の下に小舌を生ず、木舌は、舌すくみ、木のごとくになる、共に肺兪、脾兪、肝兪、膏肓。
▲木舌、重舌は三稜針にて舌下の紫脈を刺して、悪血を出す。
▲弄舌は口より外へ舌を出すなり。
▲四五歳まで語ること能ずは心兪三壮。
▲亀背は、肺兪三五壮、あるひは膈兪、心兪。
▲亀胸は、両乳の前、各一寸半に灸三壮。
▲口瘡、鵞口は上脘、中脘、下脘。
▲赤遊風は百会、委中。
▲目赤眥は、大指小指の間の後一寸半三壮。
▲肩腫、偏墜は、関元三壮、大敦七壮。
▲腋腫馬刀瘍は陽輔、太衝。
▲瘍腫、振寒には少海。
▲頭中瘡は陽輔、太衝。
▲遍身瘡を生ぜば曲池、合谷、三里、絶骨、膝眼十四壮。
▲熱風、癮疹には肩髃、曲池、曲沢、環跳、合谷、湧泉。
▲疥癬は曲池、支溝、陽谿、陽谷、大陵、合谷、後谿、委中、三里、陽輔、崑崙、行間、三陰交。
▲初生の児、病なくは、みだりに針灸すべからず。其痛に忍えがたく、五臓を動かし、却て病を生ずべし。


底本:『鍼灸重宝記綱目』(京都大学附属図書館所蔵)
図は画像データより抽出し一部加工

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