丹波 康頼

丹波 康頼(たんば の やすより)
生没:912年(延喜十二年)~995年(長徳元年)

医心方丹波康頼は平安時代の鍼博士で、現存する日本最古の医学書『医心方いしんぽう』を著したことで知られています。(鍼博士は当時の医療を司る役職のひとつ。)
丹波康頼は随や唐から伝わった多くの医学書を元に『医心方』を編纂し、984年(永観二年)に完成、翌年朝廷に献上しました。これにより丹波家は宮廷医として代々続くことになりました。
『医心方』は全30巻の長大な物で、内容は多岐にわたり、鍼灸・内科・外科・皮膚科・耳鼻科・婦人科・産科・小児科・養生法・房中術・食養生などに関して記載されています。
このように様々な治療について書かれているため、平安時代の医術の全体像を知ることが出来る非常に重要な文献だと言えます。また、既に失われてしまった中国の古い文献の内容を伺う手がかりとしても重要な資料となっています。
丹波康頼個人の記録はあまり残っていませんが、『医心方』は現在まで散逸せずに残っています。
朝廷にて保管されていた『医心方』ですが、正親町天皇により1554年(天文二十三年)に半井光成に下賜されました。その後、半井家にて秘蔵されました。(半井家本・その後、1984年に国宝となり、現在に至ります)
また、仁和寺にも写本が有りましたが、現在は30巻のうち5巻が残るだけとなっています。(仁和寺本・こちらも国宝になっています)
幕末の1854年(安政元年)に幕府が半井家から半井家本を借り受け、丹波家の末裔、多紀元堅らによって出版されました(安政本)。これにより『医心方』を多くの人が読むことが出来るようになりました。

医心方三十巻
医心方全三十巻(安政本の復刻版)

『医心方』について

以下に医心方の各巻の概容を示します。

巻第一 総説(治療原則、薬物の服用・調合及び薬物の和名)
巻第二 針灸(孔穴主治法-孔穴の名称・ツボの部位・置針の時間・施灸の数と主治。第三以下は吉凶禍福の類迷信的記載)
巻第三 内科(病源総論-風・邪風の概念、中風の治法)
巻第四 皮膚科(毛髮・頭部・顔面の疾患とその治法)
巻第五 耳鼻科(耳・目・口・歯・咽喉等の疾患とその治法)
巻第六 内科(胸痛・脇痛・心痛・服痛等疼痛の治法など)
巻第七 外科および内科(陰部・肛門の諸病および腸内寄生虫)
巻第八 内科(脚気)、外科(手足の外科的病気)
巻第九 内科(咳嗽・気管支炎・胃病など)
巻第十 内科(疝気・マラリヤ)、外科(腹の腫物)
巻第十一 内科(霍乱及び利)
巻第十二 内科(小便及び大便の異常)
巻第十三 内科(虚労-慢性的心身の衰耗、機能低下)
巻第十四 内科など(迷信やまじない)
巻第十五 外科(癰・疔・癤・丹毒など)
巻第十六 外科(丁瘡・毒腫・風腫・気痛・悪核腫など)
巻第十七 外科(蒼・丹毒等の治法)
巻第十八 外科(湯傷・火傷・灸創・金創、虎の人を噛めるを治す方など)
巻第十九・二十 製薬(練丹法を含む)、調剤(処方)
巻第二十一 婦人病(顔の病、乳房・陰部の病、膣脱・月経異常・帯下・欲男・婦人鬼交・生産を断つ方など)
巻第二十二 産科(妊娠の詳細な図説、針灸不可の経脈、妊婦の身の修め方、食物の禁、人工流産の方など)
巻第二十三 産科(陰陽五行、十干十二支、方位による吉凶・禁忌・呪文が主)
巻第二十四 産婦人科(治無子法、胎児の男女を知る法、女を変じて男にする法など)
巻第二十五 小児科(新生児に関する儀礼やまじないと臨床論)
巻第二十六 養生(長寿方・美色方・芳気方・相愛方・益智方・求富方など-呪術的宣託の実行と服薬)
巻第二十七 養生(個人の日常生活の自戒自省-大体・谷神・養形・臥起・言語等)
巻第二十八 房中(性生活の養生法-性交の技術、性交回数、性交による不老長寿法、玉茎小の処方など)
巻第二十九 食養生(夜食禁・飽食禁・酔酒禁・飲水宜・合食禁など)
巻第三十 食養生(五穀二十四種、五葉四十一種、五肉四十六種、五菜五十二種の詳説)
※『醫心方解説』日本古典資料センター(1973)より引用

上記の通り、非常にさまざまな内容について記載されていることが分かると思います。一般的に平安時代に病気になった場合に「まじないヽヽヽヽのようなもののみで治療を行っていたのでは?」といった印象があると思われますが、医心方を読む限り、鍼灸治療や漢方薬を用いた治療がおこなわれていたことが分かります。一部まじないヽヽヽヽヽや迷信的なものなどが入っていますが、その比率は少ないといえます。また、養生や食養生に関しての巻が多いことから、病気にならないように日ごろの養生にも気をつけていたことが分かります。

参考までに幾つかの巻の目次を以下に示します。

    医心方巻第一

  1. 治病大体第一
  2. 諸病不治証第二
  3. 服薬節度第三
  4. 服薬禁忌第四
  5. 服薬中毒方第五
  6. 合薬料理法第六
  7. 薬斤両升合法第七
  8. 薬不入湯酒法第八
  9. 薬畏悪相反法第九
  10. 諸薬和名第十
    医心方巻第二

  1. 孔穴主治法第一
  2. 諸家背輸法第二
  3. 針禁法第三
  4. 灸禁法第四
  5. 針例法第五
  6. 灸例法第六
  7. 針灸服薬法第七
  8. 人神所在法第八
  9. 天医扁鵲天徳所在法第九
  10. 月殺厄月衰日法第十
  11. 作艾用火法第十一
  12. 明堂図第十二