鍼灸重宝記≫経絡要穴⑥・秘伝の穴

秘伝の穴

患門

二穴。男は左、女は右の足の大指の頭、爪の先より足のうらをの下に引、それよりの後の横文までの寸を取て、其稗を鼻の頭より項にのぼせ、項の後に下し稗の尽る処に、脊の正中に仮点を付、又鼻下より両の吻までの寸を取って、其稗の真中を仮点にあて、両の端に点す、これ患門の二穴なり。さて前に点したる脊の正中の点はぬぐひ去べし、但し立ばの紋あまた見えて正しからず、初めまづ坐して横文のかしらに、かりに墨を付て、それを見て紋の正中までの寸をとるべし、灸数は病人の歳のかずに一壮ましてすべし、たとへば三十歳ならば卅一壮すべし。虚労、手足の心熱し、盗汗、精神くるしみ倦、骨節いたみ、寒、初は咳嗽して漸く膿血を吐き、肌痩、面黄み、食少く力とぼしきを治す。
『聚英』に曰く此穴を考るに五椎の両旁へ二寸づつ、心兪の二穴より五分づつひらく、心は血を主る故にこれを灸すと、云云。

四花

四穴。稗心を三条ばかり結びつぎ、正中を大椎にあて、頚にかけ両の端を前に下し、鳩尾にて両の先を截る、さて其稗心の正中を結喉へあて後へまはし、稗の盡る処の背の正中に仮に墨を点す。別に又口の広さの寸を唇のなりに随ひ取て、其正中を前の仮点に横に当、両の端に点し、又その稗を竪にして正中を仮点に当て上下の端に点す。これ四花の穴なり。中の仮点はぬぐひさるべし。先づ患門の二穴と四花の横の二穴と合せて四穴を同時に灸す。一穴に廿一壮づつ毎日灸して、一穴に百五十、二百壮に至る、其灸漸く愈んとするとき竪の二穴を灸すべし、一穴に七壮づつ毎日灸して一穴に五十壮百壮まで、後に三里に灸して気を下すべし、伝尸、労咳、骨蒸、虚熱、元気いまだ脱ざる先に灸すれば必ず効あり、又崔氏が四花の穴は膈兪、胆兪の四穴に合る。
『聚英』に曰く、血は膈兪に会す、胆は肝の府、血を蔵す、故に此を取る。
『類経』四花 、崔氏四花 、 〇は仮点。

腰眼

二穴。病人を立て腰をみれば両旁にすこし陥ありて、両眼のごとし是穴なり、合面に臥して、一穴に七壮か十四壮か労瘵の腰痛に妙なり、労虫あれば吐き出すか、大便より下る。癸亥の日、亥の時に灸すべし、故に癸亥の穴と云、俗に亥眼とも云。

風市

二穴。腿の外の正中膝の上七寸両筋の間なり、立つて身を直にし両手を斉く下し、中指の頭の盡処陥の中、五十壮百壮腰腿脛しびれ、いたみ、脚気、中風を治す。

騎竹馬

二穴。先づ長き稗にて男は左、女は右の手の肘横文の中より、手の中指の端までの寸を取り、病人を丸竹の上に胯げ乗せ、別に両人して竹を持上げ、病人の足畳よりはなれて、背を直にして、肘より取りたる稗の端を跨たる竹の際、亀の尾の所にあて、脊にそふて上に升せ稗の盡る所の背に仮点し、それより左右ヘ一寸づつ。灸十四壮廿一壮癰疽一切の悪瘡、ちうぶ、痛風等に妙なり。

鬼哭

二穴。病人の両手を合せ、大指を汰ならべて、紙よりにて両の大指を縛り、艾を四分ばかりの大さにして両の爪の角と肉と四処にあて灸すること七壮十四壮、狐つき、物つき、驚風、てんかんを。

斜差

二穴。脊の九椎の下、左ヘ一寸五分、十一椎の下、右ヘ一寸五分。肝兪は風邪に傷られさるため、脾兪は飲食に傷られざるため、小児は気力脆して灸炷に勝かぬるゆへに四穴に灸せず、肝は左にある、脾は右にあるゆへに略して二穴に点す。

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底本:『鍼灸重宝記綱目』(京都大学附属図書館所蔵)
図は画像データより抽出し一部加工