『鍼灸重宝記』本郷正豊著(4)

五臓の色脉証候虚実の例

は血を蔵して魂を舎す、筋と爪と風とを主る。東方の木に属し、春に旺して、其脈は弦なり。外候は目にあり、その声は呼、その臭は臊し、その味は酸し、其液は泣、その色は青し、其志は怒る。其経は足厥陰、その腑は胆。その変動は握、その積は肥気、杯のごとく左の脇の辺を覆ふ。
肝気盛なるときは目赤、両の脇の下痛み、小腹に引。よく怒り、気逆するときんば頭眩き、耳聾へず、額腫る、宜しくこれを瀉すべし。不足するときんば目明ならず、両の脇拘急、筋攣り、太息することを得ず。瓜甲枯て青く、よく怒り恐れて人の捕えんとするがごとし。宜しくこれを補ふべし。

は脉を蔵して神を舎す、血脈と暑とを主る。南方の君火に属し、夏に旺して、其脈鈎のごとくにして洪なり。外候は舌にあり、其声は笑、その臭は焦、その味は苦し、その液は汗、その色は赤し、其志は喜ぶ。其経は手少陰、その腑は小腸。その変動は憂、その積は伏梁、臂の如くにして臍につらなる。
心気盛なるときんば胸内痛み脇支へ満ち、脇下痛、膺背髆脾の間いたみ、両臂の内痛み、喜んで笑て休ず。宜しくこれを瀉すべし。不足するときんば胸膜大に、脇下と腰背と相引て痛む、怔忡驚悸、恍惚、顔色少く、舌本強り、善んで憂悲す。宜しくこれを補ふべし。

は営(一に曰、智)を蔵して意を舎す、肌肉と労倦と湿とを主る。中央の土に属し、長夏に旺して、其脉緩なり。外候は唇口に在り、其声は歌、その臭は香し、其味は甘し、其液は涎、その色は黄、その志は思。その経は足太陰、その腑は胃。その変動は、その積は痞気、胃管に在て覆大にして盤のごとし。
脾気盛なるときは腹痛み、腹脹溲利せず、身重く苦だ飢、足痿て収らず、行くときは瘈まり、脚下痛む。宜くこれを瀉すべし。不足するときんば怠惰して臥ことを嗜む、四肢用られず、食少なく、食化せず、嘔逆、腹脹、腸鳴。よろしくこれを補ふべし。

は気を蔵して魄を舎す、皮と毛と燥とを主る。西方の金に属し、秋に旺して、其脉は毛の如くにして浮なり。外候は鼻にあり、その声は哭、その臭は腥し、其味は辛し、其液は涕、その色は白し、其志は憂ふ。其変動は咳。その経は手太陰、その腑は大腸、その積は息賁、右の脇の辺にあり。
肺気盛なるときんば喘咳、上気、肩背いたみ、汗出、尻、陰、股、膝、踹、脛、足、みな痛む。宜しくこれを瀉すべし。不足するときんば少気にして息するに足らず、耳聾、咽乾き、溺の色変ず、卒に遺失して度なし。宜しくこれを補うべし。

は精を蔵して、志を舎す、骨髄と歯と寒とを主る。北方の水に属し、冬に旺して、其脉石の如にして沈なり。外候は耳に在り、其色は黒し、其味は鹹し、其志は恐る、其声は呻、その臭は腐し、その液は唾。その変動は慄。その経は足少陰、其腑は膀胱、その積は賁豚、臍の下にあり。
腎気盛なれば腹脹、飧泄、小便黄に渋り、体腫、喘咳、汗出で、風を憎み、面目黒し。宜しくこれを瀉すべし。不足すれば厥す、腰背冷、胸内痛み、耳鳴、苦しきときはきこへず、歯動き、腰背痛み、唾血、足の心熱して痛み、善んで恐る。宜しくこれを補ふべし。

五臓の色体

五臓
五腑小腸大腸膀胱
五行
五根舌耳口唇耳 二陰
五味
五気湿
五色
五季土用
五方中央西
五主血脉肌肉皮毛
五志
五精
五液

四知之論 病証を見たつる法

 神聖工巧、望聞問切、これを四知といふ。又、四象とも旨綮ともいふ。『難経』に曰く、問うてこれを知る、これを工といふ。脉を切してこれをしる、これを巧といふ。望んで之を知る、これを神といふ。聞てこれをしる、これを聖といふ。
 それ五臓内に病むときは即ち五色外にあらはる。面青きは腹中のいたみなり、赤きは腹中に熱あり、黄なるは脾胃のよはき也、白きは腹中の寒なり、黒きは腎のやぶれなり。酒をのまずして酔たる如くなるは神気の不足なり。手足の指のび、節あひすきたるは病を得て遅くいゆる。此の如く外より望み見て腹中の病をしるを望といひ神といふ。
 それ五臓内に有て五声を出す、歌哭呼笑呻これなり。五音は唇舌牙歯喉に出る、宮商角徴羽これなり。しかれば病人の声を聞いて腹中の病をしる。たとへば、哭は肺の病としる、清涕たれ鼻ひるは肺に風寒ありとしり、歌てよだれ多きは脾の病としる、怒りさけびて泪おおきは肝の病なり、唾おほく呻くは腎の虚なり、喜んで笑ひたわこといふは心のやまひ、声のかろきは気のよはき也。こえの重く濁るは風のいたみ、声出ざるは肺の病なり、声の急なるは神の衰へなり、声ふさがるは痰のしはざなり、声ふるふは冷なり、声むせぶは気の不順なり、あえぐは気のいそがはしき也、あくび多きは気のつかへたるなり。此の如く病人の声を聞て病をしるを聞といひ、聖といふ。
 夫れ五味は口に入、胃に納るといへども、是をとろかしこなして脾に渡せば、すなはちこれを五臓六腑に散ずるなり。口酸きは肝に熱あり、口苦きは心熱なり、口甘きは脾の熱なり、口辛きは肺に熱あり、しほつはきは腎の熱なり、口淡きは胃熱としる。此のごとく病人のきらひ、このむ味を問いわきまへて、五臓の病のおこるところを知り、又病者つねに何を食し、いづれの日やみはじめ、いかやうにして病を受けたるぞ、と委しく病因を問うて病の源をしるを問といひ、工と云うなり。
 右、望聞問の三つをつくし、其後脉を候ひ、病の虚実をわきまへ、陰陽寒熱をつまびらかにし、生死吉凶をさだむるを診候の術と云うなり。脉を候ふことは神気をしづめ呼吸を定めて診べきなり。脉を切して、臓腑の病をわきまへ生死をしる、これを切といひ巧と云。
 およそ針灸医の道を勤る人は大酒と色欲とをたしなみ、貪り、妬み、にくむ心を生ずべからず。慈仁の心を存し利欲をわすれ博く施して衆人を済ふべし。


底本:『鍼灸重宝記綱目』(京都大学附属図書館所蔵)
図は画像データより抽出し一部加工

この記事へのコメント