経絡要穴③・肩背の部/『鍼灸重宝記』本郷正豊著(12)

肩背の部

肩井

二穴。肩の上陥の中、缺盆の大骨の後一寸半、肩の中央なり、指を三汰て推してとる、中指の下陥の中。灸五壮、針五分、もしふかく刺せば悶倒する、悶倒せば三里に針して補うべし。
中風、気塞り、涎上て語らず、腎虚して腰いたみ、上気、短気、逆気、風労、撲損、臂尻いたみ、頭項痛みかへりみることを得ず、五労七傷、婦人難産堕胎の後、手足冷、弱き者、針して則ちいゆ、日に灸すること七壮より二百壮まで。

肩髃

二穴。肩のはずれ、肩骨と臑骨のつがひめ、臂を伸べあぐれば、肩端にくぼむ穴ある処なり。針八分留ること三呼、瀉すること五吸、あるひは一寸、或は六分、留ること六呼、灸七壮、二七壮、もし中風には四十九壮おほくすべからず。
風病、筋骨力なくば灸せよ、刺は肩臂の熱気を瀉す、中風手足かなはず、攣急肩肘いたみ、肩中熱し、頭回らず、風熱、、労気、遺精、しやうかん、熱さめず、手足熱するを治す。

大椎

一穴。脊の一の椎の上陥の中。針五分留ること三呼、瀉五吸、条三十壮五十壮。
肺脹、脇みち、嘔吐、上気、五労七傷力なく、温瘧、肩背ひきつり、頭項強りて顧ることを得ず、風労、食気、骨熱、歯燥を治す。傷寒太陽と少陽との併病、頚項強りいたみ、眩冐、心下つかへるに刺べし。

身柱

一穴。三椎の下。灸三壮より百壮まで。
癲癇、狂乱、腰背いたみ、小児の驚癇五疳を治す、俗にちりけと云うは此穴也。

命門

一穴。十四椎の下。針五分、灸二壮、或は五十壮、百壮。
久瘧、腰腹引痛、久き頭痛、発熱汗出でず、寒熱、骨蒸、五臓熱、下血、小児きやうふう、てんかん反折を治す。

陽関

一穴。十六椎の下。針五分、灸三壮。
久しき瘧、腰膝いたみ、小腹いたみ、中風、不仁、筋攣り行ざるをつかさどる。

腰兪

一穴。二十一椎の下。灸七壮四十九壮、針二分、留ること七呼、あるひは八分、留ること三呼、瀉は五吸。
腰尻背いたみ、温瘧汗出でず、足膝不仁していたみ、傷寒、四支熱し、月経通ぜず、帯下を治す。

長強

一穴。背の骶骨の端、俗に亀の尾と云う処なり。針二分留ること七呼、灸五壮あるひは三十壮二百壮まで。
是痔の根本なり、腸風、下血、久痔、腰背いたみ、狂乱、大小便かたく、頭重く、洞泄、淋病、小児顖陥り、驚風、癲癇、瘈従、嘔血、驚恐、視ること正しからざるを主る。背強るものはこれを瀉し、頭腫る者はこれをおぎなふべし。

風門

二穴。背の二椎の下、両旁ヘ一寸五分づつ。針五分三分留こと七呼、灸五壮。
癰疽、身熱し、上気、気短く、欬逆、胸背痛、嘔吐、傷寒、頭項強り、目瞑り、胸熱を治す。

肺兪

二穴。三椎の下、両旁ヘ一寸五分づつ。針三分五分留ること七呼、気を得てすなはち瀉す、刺して肺に中れば欬して三日に死す、灸百壮五十壮。
労瘵、口舌乾き、上気、腰脊強りいたみ、寒熱、気短、喘満、虚煩、肺痿、咳嗽、肉いたみ、皮癢、嘔吐、不食、狂い走り、背僂を治す、太陽と少陽と併病、頭項強りいたみ、或は眩冐、心下痞硬に太陽の経の肺兪、肝兪を刺べし。

厥陰兪

二穴。四椎の下、左右ヘ一寸五分づつ。針三分、灸七壮。
欬逆、牙痛、心いたみ、胸満、嘔吐、煩悶を主る、即ち心包絡の兪なり。

心兪

二穴。五椎の下、左右ヘ一寸五分づつ。針三分留ること七呼、気を得て即瀉す、刺して心に中ればして即死、禁灸、『千金』に曰く、中風、心急には心兪を灸すること百壮。
中風、冐絶、てんかん、狂走を主る。

膈兪

二穴。七椎の下、両旁へ去ること一寸五分づつ。灸三壮三十壮、多く灸すれば心中に徹て、悸惕する、針三分留ること七呼、若し刺して膈に中れば一歳を過ぎずして死す。
心痛周痺、吐食、翻胃、骨蒸、手足怠惰して臥すことをこのみ、痃癖、欬逆、嘔吐、膈胃寒、痰飲、食下らず、熱病汗出でず、身おもく、常に温にして不食、身いたみ、脇腹満、自汗、ねあせを治す。

肝兪

二穴。九椎の下、両旁へ相去ること各一寸五分。灸三壮七壮、針三分留ること六呼、刺して肝に中れば欬して五日に死す。
多く怒り、黄疽、熱病の後目くらく、涙いで、目眩、気短く、欬血、目上視、欬逆、口乾き、寒疝、筋寒へ、熱痙、筋急に相引き、転筋腹に入り、欬して胸脇に引いて痛み、反折り上視し、驚狂、はなぢ、唾血、短気、積聚を治す。

胆兪

二穴。十椎の下、両旁各一寸五分づつ。針三分五分留ること七呼、灸三壮五壮、刺して膽に中れば一日に死す。
頭痛、振寒汗出でず、腋下腫、心腹張、口苦く、舌かはき、咽痛み乾き、嘔吐、骨蒸、労熱、不食、目黄を治す。(四花の上二穴は膈兪、下二穴は胆兪なり)

脾兪

二穴。十一椎の下、両旁へ相去こと一寸五分づつ。針三分留ること七呼、灸三壮五壮、刺して脾に中れば、呑酸して五日に死す。
多食して身痩、鹹き汁を吐き、げんぺき、積聚、脇下みち、洩利、痰瘧、寒熱、水腫、気脹脊に引いていたみ、黄疸、不食を治す。

胃兪

二穴。十二椎の下、両旁ヘ一寸五分づつ。針三分留ること七呼、灸三壮七壮。
中湿、霍乱、胃冷え、腹脹て鳴り、翻胃、嘔吐、不食、多食して痩羸、目暗く、腹いたみ、むねわき支満、脊いたみ、筋攣を治す。

三焦兪

二穴。十三椎の下、左右ヘ一寸五分。針三分五分留ること七呼、灸三壮五壮。
積じゆ、脹満、不食羸痩、傷寒頭痛、吐逆、肩背腰強り、小便渋り、泄注、腹脹、腸鳴り、目眩頭痛を治す。

腎兪

二穴。背の十四椎の下、左右ヘ一寸五分づつ、臍と平し。灸三壮針三分留ること七呼、もし刺して腎に中れば嚏して六日に死す。
五労七傷、虚して羸痩、耳聾ず、下部冷、淋濁、目暗く、溺血、遺精、腰膝脚いたみ、消渇、身熱し、振寒、多食しても痩、面黄黒く、腸鳴、四肢だるく、洞洩食化せず、身浮腫るを治す。

大腸兪

二穴。十六椎の下、左右ヘ一寸五分づつ。灸三壮針三分留ること六呼。
中燥、脊強り腰痛み、腹いたみ、腸鳴り、多食して身痩、大小便結、洩利、白痢腸癖を。

小腸兪

二穴。十八椎の下、左右ヘ一寸五分づつ。灸三壮針三分留ること六呼。
中暑、小便赤く、淋瀝、遺溺、小腹脹満、㽲痛み、泄痢、膿血五色、脚はれ、五痔、づつう、虚乏、津液すくなく、消渇、口かはき、帯下を治す。

膀胱兪

二穴。十九椎の下、両旁ヘ一寸五分づつ。灸三壮七壮針三分留ること六呼。
風労、脊強り、小便赤黄、遺溺、陰瘡、少気、脛寒、拘急、腹満、大便かたく、洩利、腹いたみ、脚膝力なく、女子瘕聚を治す。

膏肓兪

二穴。四椎の下、五の椎の上にちかし、脊中を左右へ相去ること各三寸、口伝に胛骨のきはに一指を側置ほどに點すべし、後に気海丹田、関元、中極、四穴の内一穴と足の三里とに灸して火気を引下げてよし、灸百壮五百壮まで。
虚損、伝尸、骨蒸、遺精、痩つかれ、健忘、痰飲、しやくり、上気、発狂を主る。膈噎、心中妨悶、項背こわり、目病、気病、諸病治せずといふことなし。

神堂

二穴。五椎の下、左右へ三寸づつ開。針三分五分、灸五壮三壮。
腰背強り、悪寒発熱、胸腹満、気逆上攻、時に饐るを。

譩譆

二穴。六椎の下、左右へ三寸づつ開。肩膊の内かど針三分留ること七呼あるひは六分留ること三呼、瀉五吸、灸五壮より百壮まで。
大風汗出でず、労損臥すことを得ず、瘧疾、背もだへ、気満腹脹、気眩、むねわき腰背痛み、目いたみ、鼻衂、喘逆、臂膊内廉いたみ、食時頭痛、五心熱を治す。

膈関

二穴。七椎の下、左右へ三寸づつ、陥の中。針五分、灸三壮。
背痛み、悪寒、脊強り、不食、しゃくり、涎唾多く、胸もだへ、大便調はず、小便黄なるを治す。

魂門

二穴。九椎の下、左右へ三寸づつ開き。針五分、灸三壮。
背より心に引きいたみ、尸厥、腹鳴、大小便ととのはざるを治す。

意舎

二穴。十一椎の下、左右へ三寸づつ開。針五分、灸五十壮百壮。
腹満泄瀉、小便赤黄、嘔吐、不食、消渇、目黄なるを治す。

肓門

二穴。十三椎の下、左右へ三寸づつ開。針五分、灸二壮、あるひは三十壮。
心下いたみ、大便かたく、婦人の乳病を治す。

志室

二穴。十四椎の下、左右へ三寸づつ開。針五分、灸三壮七壮。
陰腫れいたみ、腰背こはり、いたみ、すくみ、食化せず、遺精、淋病、吐逆、両のわき攣りいたみ、霍乱を治す。

胞肓

二穴。十九椎の下、左右へ三寸づつ。針五分、灸三十五壮五十壮。
腰背いたみ、腹脹食化せず、淋病、大小便通ぜざるを治す。

秩辺

二穴。二十椎の下、左右へ三寸づつ。針三分五分、灸三壮。
五痔、小便赤、腰痛を治す。

広告

底本:『鍼灸重宝記綱目』(京都大学附属図書館所蔵)
図は画像データより抽出し一部加工